打ち合わせをする永井先生
医師を目指したきっかけをお聞かせください。
永井岡山市に旭川荘という、療育・医療センターや療育園、児童院などを兼ね備え、身体や知的障害がある方を幼少期から大人までケアする総合福祉施設があります。その中の旭川児童院と私が通っていた岡山市の公立中学校との間で交流会があり、児童院の子どもさんと触れ合ったことで、感じるものがあったのがきっかけです。そして、そこに勤務しておられた児童精神科医の先生が友人のお母様だったんです。その友人を通じて、精神科医や児童精神科医という仕事を知り、中学2年生か3年生の頃に精神科医を目指すようになりました。その友人もまた精神科医となり、現在はお母様と同じ児童精神の分野で大変活躍しているので、未だに刺激を受けています。
では最初から精神科医を目指して、医学部に進学されたのですね。
永井最初から精神科に進むと決めていたので、ほかの診療科には全く興味がなかったですね(笑)。ただ国家試験に合格するために、ほかの科の勉強もしていましたが、今から思うともっと自分のこととして勉強しておけばよかったです。私は精神医学を志すと決めていたこともあり、学生時代の基礎研究をする期間も精神科の教室で実験などをさせていただいていました。そこで出会ったのが当時、助教授でいらした佐野輝先生です。それまでの私は児童精神科医を目指していたのですが、佐野先生と出会ったことで、遺伝子の生物学的研究に目覚めて、神経変性疾患や様々な精神疾患の遺伝子研究を10年ほどしていました。大学生の頃から佐野先生に師事していましたので、研修医時代も昼間は研修医の仕事をして、夜は研究室で実験をさせていただいていました。ストレートで入局していた時代なので、研修医としては一般的な精神医学を勉強していました。私が研修医2年目のときに佐野先生が鹿児島大学の教授になられたので、私も鹿児島大学に移りました。現在、佐野先生は鹿児島大学の学長をされています。
鹿児島大学の大学院に進学されたのですね。
永井研修医の最後3カ月を鹿児島大学病院で過ごし、研修を終えた春に大学院に進学しました。大学院修了後は谷山病院という精神科の単科病院で1年ほど経験を積みました。精神科の単科病院での勤務は谷山病院だけで、あとは全て総合病院勤務なので、貴重な1年でした。それから鹿児島大学の助教となり、引き続き研究をしていたのですが、私には研究の才能がないことに悩み、最終的に臨床医の道を選びました。臨床医として佐野先生の下で働きたい気持ちもあったのですが、地元の岡山に帰りました。
倉敷中央病院での勤務を選ばれたのはどうしてですか。
永井研究という道がなくなったときにどの道を行くかと考えました。そこで、それまで学んできた生物学的な知識を活かすためには、検査や画像など客観的なデータを得られる環境で精神科医をしたいと思うようになったんです。そうすると、大学病院以外では必然的に総合病院ということになり、ちょうど募集があった倉敷中央病院に勤務することになりました。倉敷中央病院には1年9カ月ほど勤務しましたが、急性期病院に身体疾患で入院している患者さんの精神疾患を診るための基礎を色々勉強させていただきました。
愛媛大学に戻ってこられたのはどうしてですか。
永井倉敷中央病院で働き続けたい気持ちはありましたが、夫が住む愛媛へ転居することにしました。鹿児島大学は円満に退局していましたし、その前は愛媛大学に入局していたことと、愛媛大学の上野修一教授には学生時代に研究を教えていただいた縁もあり温かく拾っていただきました。
松山赤十字病院に来られたのはどうしてですか。
永井愛媛に約10年ぶりに帰ってきたのですが、私はやはり総合病院に勤務したい気持ちがありましたので、ちょうどポストに空きがあった松山赤十字病院に勤務することになりました。医局人事で着任しましたが、当院での仕事にはとても満足していますので、今は定年まで働き続けられたらと思っています。当院に来て9カ月後に当時の渕上忠彦院長に引き上げていただき、部長に就任しました。
松山赤十字病院での勤務内容をお聞かせください。
永井当科は入院病床がないため、他科からの依頼による診療が主で、特に多職種とのチーム診療に力を入れています。その一つが認知症ケアチームで、2016年に立ち上げました。私は立ち上げの中核メンバーにも入れていただき、認知症看護認定看護師、社会福祉士、公認心理師、薬剤師、作業療法士などと協働しています。たとえ認知症があっても安心して身体の治療を受けていただくためのサポートを行っています。ただ、今年は精神科に医師が増えましたので、この仕事を譲り、私は緩和ケアチームの方に力を入れています。これはがん患者さんの様々な苦痛症状を緩和するためのサポートチームで、身体症状を診る医師、精神症状を診る私、緩和ケア認定看護師、薬剤師、公認心理師などで活動しています。このほか、周産期のメンタルケアにも多職種で取り組んでいます。妊娠中に不安になる妊婦さんも多くいらっしゃいますし、もともと精神科で治療中の妊婦さんや、周囲に支援者がおらず育児に不安を抱えたり、産後うつになられる方などを、妊婦健診中からある程度育児が軌道に乗るまでサポートしています。産婦人科医、小児科医、助産師、看護師、公認心理師などの当院成育医療センターのメンバーがもともと熱心に活動していましたので、今はそこに混ぜていただいています。地域との連携のために、成育医療センターと地域行政職との合同カンファレンスも頻繁に開かれており、私も積極的に参加しています。