専門研修インタビュー

2024-01-10

南砺市民病院(富山県) 指導医(専門研修) 大浦誠先生 (2024年)

南砺市民病院(富山県)の指導医、大浦誠先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

南砺市民病院

〒932-0211
富山県南砺市井波938
TEL:0763-82-1475
FAX:0763-82-1853
病院URL:https://shiminhp.city.nanto.toyama.jp/www/index.jsp

大浦先生の近影

名前 大浦 誠
南砺市民病院 内科副部長 総合診療科副部長 指導医

職歴経歴 1979年に富山県南砺市に生まれる。2009年に福井大学を卒業後、南砺市民病院で初期研修、後期研修を行う。2014年に南砺市民病院とやまNANTO家庭医養成プログラムを修了する。その後も南砺市民病院に勤務し、医長を経て、2021年に内科副部長、総合診療科副部長に就任する。
資格 日本内科学会認定医・総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、日本臨床倫理学会臨床倫理認定士、日本プライマリ・ケア連合学会専門医・指導医、総合診療専門医(日本専門医機構)、JMECC(内科救急・ICLS)プロバイダーなど。
日本老年医学会、日本褥瘡学会にも所属する。

南砺市民病院の特徴をお聞かせください。

 「安全で確かで温かい医療」をモットーにしています。「安全」と「確か」に関しては2021年に国際病院機能評価機構であるJCIの認証を受けました。これは医療の質が確かであることと患者さんへの安全について、国際的に最も厳しい基準を満たした病院であるということです。
全国の病院で32番目、自治体病院では初で、北陸でも初めての認証となりました。「温かい」に関しては清水幸裕院長が日本臨床倫理学会の理事であることもあり、患者さんの意向を最大限に尊重しながら、患者さんや関係する方々の最善とは何かを考えていくことを軸に置いています。それから地域密着型のドクターカーも配備しており、そういう面からも患者さんが安心して暮らせる仕組みを作っている病院です。

大浦先生がいらっしゃる総合診療科の特徴もお聞かせください。

 10人の医師がおり、チーム制をとっています。救急から在宅まで幅広く総合的に診ていますので、ほかの病院の総合診療科と比べると守備範囲の広さは特徴だと思っています。

南砺市民病院の総合診療専門研修プログラムの特徴をお聞かせください。

 当院内の特徴としては、私自身が「医学界新聞」でマルチモビディティに関する連載をしていたこともあり、マルチモビディティをどう診て、診療のスキルをどう鍛えていくのかということがまず挙げられます。
そして救急から在宅医療、ドクターカーでの研修なども幅広くできますので、マルチタスクを処理できる能力を養えます。一方で、当院外での研修も充実しており、洛和会丸太町病院、板橋中央総合病院などに加え、2023年から沖縄県立宮古病院、練馬光が丘病院でも研修できるようになったことも魅力です。

南砺市民病院の総合診療科で専門研修をされた先生方はどのようなキャリアアップをされていますか。

 当院単独のプログラムが始まったのは2021年からですので、まだ卒業生は出ていません。
しかし以前の富山大学附属病院総合診療科との連携プログラムを終えた人は病院で活躍していたり、診療所で働いていたりと様々です。資格に関しては日本プライマリ・ケア連合学会の「新・家庭医療専門医」と日本専門医機構の「総合診療専門医」が取得できます。
また、富山県では初となる日本地域医療学会の地域総合診療専門医を取得できるプログラムも作るなど、色々なキャリアパスに繋がる資格を取得できます。そのほか、総合診療科で専門研修を終えたあとで新しい専門性を身につけたいという人には新しい道を紹介するフェローシップという制度もあります。

カンファレンスについて、お聞かせください。

 総合診療科には主に5つのカンファレンスがあります。
1つ目は入院患者さんのレビューをするカンファレンスです。
2つ目は消化器内科の先生方と内視鏡のカンファレンスをするといった、臓器別の先生方とのカンファレンスです。
3つ目は終末期カンファレンスです。このカンファレンスの目的は一人で終末期の判断をしないこと、その患者さんの治療をどうするのか、「治療をしない」という選択肢も含めて、皆で相談して考えることにあります。
4つ目は臨床倫理カンファレンスです。これは正しい治療だったのかという臨床的に悩ましいときに、その倫理的な問題を他職種も含めて話し合っています。
5つ目はマルチモビディティに関する「マルモカンファレンス」で、月に1回行っています。このカンファレンスは全国規模で、看護師や薬剤師、理学療法士といったコメディカルスタッフだけでなく、法律家や建築士、宗教関連の方々などが広く集まります。
例えば、建築士の方とは生活の場としての家の間取りなどを話し合ったりします。当院は専攻医も在宅医療をしていますので、患者さんのお宅の間取りについて伝えたり、ソーシャルワーカーの方から聞いてきた問題点などを話しています。医学的なこと以外の背景などをコンテキストと言いますが、患者さんの周囲の家族や地域などの全てを把握していく力をそのカンファレンスで鍛えています。

専攻医も発言の機会が多いですか。

 全てのカンファレンスにおいて、主役は専攻医ですね。プレゼンターも専攻医ですし、質問を受けて発言するのも専攻医です。質問が飛び交うカンファレンスばかりではありませんが、マルチモビディティのカンファレンスは専攻医からの質問が多いです。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

 これまでは初期研修医、後期研修医ともに産休、育休を取得した人、育児短時間勤務制度を利用していた人はいました。当院は17時に仕事を終えることもできますし、ニーズがあれば色々な対応ができます。院内保育所もあり、利用していた女性医師もいました。

先生はいつから総合診療科を目指していたのですか。

 6年生のマッチングの少し前からです。
それまでは麻酔科志望だったのですが、3カ月間、総合診療科の臨床実習をしたことがきっかけになりました。私は福井大学に通っていたので、3カ月間のほとんどを福井県のある地域の病院で実習したのですが、1週間だけ当院で実習したのです。
その実習を通して、家庭医療や総合診療という言葉を知り、これは面白いと感じたんですね。そして地元に帰ってみたら、総合診療医が必要だという話を聞き、そのニーズにも合うだろうということで、総合診療科を選びました。

南砺市民病院で初期研修をされたのはどうしてですか。

 南砺市民病院で総合診療科の後期研修のプログラムが富山県で初めてできると知り、それなら初期研修から入った方が分かりやすいし、自分でプログラムを作れるかもしれないと思い、南砺市民病院での初期研修を行うことにしました。「初期から入っちゃえ」みたいな感じでしたね(笑)。

大浦先生の写真

初期研修の思い出をお聞かせください。

 総合診療科に行くことを前提として入りましたので、全てのプログラムを総合プログラム方式で一つ一つピックアップするところからはじめました。これが今の基礎となっています。
それだけではありません、患者さんを治したら終わりということはなく、他職種も含めた皆で話し合うのが当たり前の文化でしたので、リハビリやADL、退院されたらどうするのかといったことを初期研修のときからしっかり勉強することができました。
それが総じて良い思い出になっていますし、全て私の基礎になっています。初期研修のときから在宅医療にも携わらせていただきましたし、初期研修医の割には色々なことをさせていただいたなと感謝しています。

先生は南砺市民病院での後期研修1期生なのですか。

 初期研修は1期生ですが、後期研修は後期研修から当院に来た先生が1学年上にいましたので、正確には2期生ですね。でも、ほぼ1期生のようなものです(笑)。
清水院長が当院に内科診療部長として着任された年に私が初期研修医となり、今は院長と内科副部長ですので、お互い少しずつ役職が上がっていく中で病院の歴史を見てこられたのは良かったです。

後期研修はいかがでしたか。

 後期研修では初めて診療所に行きました。当院の隣に併設されている診療所で半年間の研修をしたのですが、診療所では医療的なリソースが少ない中で診断しないといけません。病院では「何でもやればいい」という足し算の医療をしていましたが、診療所で研修したことで、「あえてやらないことを決めた方がいいんだろうなあ」という引き算の医療の重要性を初めて考えるようになりました。
総合診療医にとっては引き算の発想も必要ですし、それは病院だけの研修では身につかないので、そういう経験を積めたことが思い出になっています。今の当院の専門研修プログラムにも半年間の診療所研修は入っています。

その後、南砺市民病院で勤務を続けていらっしゃるのですね。

 ローテートの中で近くの大きな病院に行ったことはありますが、所属はずっと南砺市民病院です。

南砺市民病院の単独型の総合診療専門研修プログラムを作られたのはどうしてですか。

 私が後期研修を行ったときは富山大学附属病院と連携しているプログラムで、もちろんそのプログラムは現在も存在しています。
ただ、全国から当院で研修したいという人たちが集まってくるようになったので、そうしたニーズに応えるために当院単独のプログラムを作りました。当院で研修をしたい方が直接申し込みをして下さったり、全国のプログラムから短期研修を希望いただいたりしており、多様な人材が集まっています。その評判で研修希望の方がきてくれているのが理想的ですね。

このプログラムができて3年目ですが、どのような変化がありましたか。

 人数が増えてきましたので、2023年3月からチームを作ることができました。
それまでは単独主治医制という形で診療していましたが、今はチームの皆でタスクシェアができています。外来をしている途中で入院患者さんのことを何か言われたりなど、身体が2つないと動けない、でもどちらも重症で困っているというマルチタスクがある状況では誰かに助けを求めることができますし、救急の現場でパンクしそうなときは誰かが救急に助けに行ったりという助け合いができるのがチーム制の良いところです。
さらに、専攻医がお互いに休みが取れるような仕組みがようやく形になってきました。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

 専攻医それぞれのニーズが違いますので、個別性を第一にということでしょうか。
診療所で勤務をしていきたい人にはリソース少なめのところでもできるような「技」をお伝えしたり、病院志向の人には多職種連携の仕方などを教えたりしています。それから難しいのですが、プロフェショナリズム教育とでも言いましょうか、主治医としてどのようにやっていけばいいのか、ジレンマを抱えたときにどうするのかなどについて悩む人が多いので、その振り返りをきちんと行うことを心がけています。
勉強をうまく進められないという人には「こうやって勉強するといいよ」みたいな知恵を授けたり、一緒に考えようと言ったり、その専攻医に合った方法を検討していくことは生涯学習のような長い目で見るためにはいいのかなと思っています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

 今の専攻医のニーズはそれぞれですね(笑)。
個別性を高めたうえで、どこかに研修に行きたいというニーズを全て叶えられるようにしていますが、私の中で「こうなってほしい」という医師像とは違う道に進んでいく可能性もあるわけです。
しかし、私の枠から外れてしまっても、それはそれで良い医師になるのではないかと勝手に期待しています。たとえ規格外になっても、私は構いませんし、私の枠組みで評価を下さなくてもいいと考えています。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

 制度としては非常にいいと感じています。救急でも安心して診られる医師が増えてきましたし、救急のスキルが上がってきたのがストレート研修で専門に入っていた時代よりも良かったことですね。
もちろん以前からスーパーローテート研修を行っていた病院はあり、そういう病院出身の先生方は救急も普通にできるのでしょうが、この制度のもとでは「全員ができるようになる」というのがポイントです。誰もが安心して救急の患者さんを診たり、当直できる仕組みになりましたね。
この制度になり、専門に進むのが遅れるのが問題だという意見もありましたが、今は専門医制度がしっかりできて、そのプログラムに乗れば質の担保もされています。色々なキャリアパスがあるわけですから、専門医取得にこだわらない生き方をするにしても、臨床医にならなかったとしても、スーパーローテートをしていれば基本的な力が身についているわけですから、スーパーローテートは大事だと思います。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

 ほかの専門領域は学会と紐づけられていますが、総合診療は日本専門医機構が運営しています。今はそこのスタッフにも総合診療医が集まっていますので、ある程度の質は保たれていると考えています。
もともと専門医認定を学会で行っていた診療科は母体となっている学会のルールがあり、歴史がありましたが、総合診療科はそれがない状態でした。それで日本プライマリ・ケア連合学会や日本病院総合診療医学会がその代わりとなりながら専門医を認定してきました。
今後は日本地域医療学会がその形になるかもしれないのですが、まだその母体が不安定というところがありますので、個人的には若手がキャリア形成において不安にならないように何とかした方がいいと思っています。

【動画】大浦先生

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