専門研修インタビュー

2022-02-01

福岡青洲会病院(福岡県) 指導医(専門研修) 中里未央先生 (2022年)

福岡青洲会病院(福岡県)の指導医、中里未央先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2022年に収録したものです。

福岡青洲会病院

〒811-2316
福岡県糟屋郡粕屋町長者原西4丁目11番8号
TEL:092-939-0010
FAX:092-939-2515
病院URL:https://f.seisyukai.jp/

中里先生の近影

名前 中里 未央
福岡青洲会病院院長補佐 総合内科部長 指導医

職歴経歴 1972年に佐賀県に生まれる。1997年に自治医科大学を卒業後、長崎医療センターで2年間のローテート研修を行う。1999年に離島にある長崎県上対馬病院に勤務する。2004年に長崎大学医歯薬学総合研究科離島・へき地医療学講座に勤務し、学生への地域医療教育を行う。2013年に福岡青洲会病院に着任し、総合内科の立ち上げと研修医教育を行い、総合診療専門医養成プログラムを作成する。2019年、2020年に1人ずつ専攻医をプログラムに迎え、2022年度には専門医が1人誕生する予定となっている。
日本内科学会指導医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、臨床研修指導医など。

福岡青洲会病院の特徴をお聞かせください。

福岡市のベッドタウンである糟屋郡粕屋町にある二次救急病院です。粕屋町は若い世代が多く、高齢化率も18%を切っており、全国でも有数の「若い街」です。そのような場所にある地域中核病院なのですが、救急病院として競合する病院がないので、医療ニーズが高く、今後も20年以上そのニーズが上昇し、患者さんが増加すると予想されています。粕屋町は福岡市に隣接しているので、救急車の6割近くが福岡市に流れていますが、それでも当院には年間4000台ほどの救急車が来ます。したがって、色々な症例に接する機会が豊富にあります。213床と中規模なのですが、救急から検査、治療とフットワーク軽く診療できる病院です。

中里先生がいらっしゃる救急総合診療科についてはいかがですか。

総合診療において、救急はプライマリケアの観点からも非常に重要な部分です。それを当院では一つの科として機能させています。救急専門医が救急担当として1人いますが、その医師を中心に救急から診ていき、入院後の治療、退院後の訪問診療に繋げる一貫した診療ができています。救急から一般外来、病棟と幅広く活躍できる場がありますし、青洲会グループには訪問診療部門もありますので、在宅医療にも対応できます。こういった体制が当院の救急総合診療科で研修する強みになります。

福岡青洲会病院の総合診療専門研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。

救急から入院、退院後まで一貫した診療を診られることがまず挙げられます。救急の担当医から専攻医に診療の応援依頼が来たら初診をして、専門治療に繋げるかどうかを判断します。専門治療に繋がない場合は救急総合診療科でマネジメントし、専攻医も含めて、私たちが主治医となって患者さんを診ていきます。場合によっては訪問診療も行います。救急総合診療科の医師が主治医となる場合は各科の医師と相談をしながら診療を進めていくのですが、最近は患者さんの高齢化が進んでおり、一つの病気では済まないことも少なくありません。そうなると当科の医師は各科の医師との橋渡し的な役割を担いながら治療を進めていくことが求められます。また、総合診療では患者さんの健康上のプロブレムから、どのような疾患なのかを精査していかなくてはいけません。そこで、当科では勉強会、カンファレンス、実際の診療の場などの研修できる環境を十分に整えています。当科だけでなく、各専門医からも直接指導してもらえますし、どのような場でも活躍できる医師になれるように指導しています。その意味では周囲の医師と仲良く情報交換ができる人、医師のみならず、コメディカルスタッフともうまくやっていける人が向いていると思います。

外部の病院の選択肢は豊富ですか。

総合診療プログラムIですと、長崎県平戸市の青洲会病院、平戸市民病院などがあります。私自身も離島で経験を積んだことがあるのですが、平戸市の病院にはそうした特性が濃くあります。市外に出られる手段がない患者さんに「この病院で診てください」と言われれば、自分なりに頑張って診なくてはいけないというシチュエーションもありますし、自分の範囲内でできること、専門医の力を借りないといけないことを把握してマネジメントすることが大切です。また、当院ではできる限りの選択肢を用意しており、小児科では福岡市立こども病院などでの研修も可能です。

福岡青洲会病院での総合診療専門研修プログラム終了後はどのようなキャリアアップが望めますか。

当院の総合診療専門研修プログラムを終える最初の専攻医は当院のスタッフになることが決まっています。当院の救急総合診療科はまだスタッフが足りていませんので、当院で育てた人に残ってほしいと願っています。もちろん、他院で修行された方の入職もお待ちしています(笑)。一方で、当院やほかの市中病院のプログラムを終えた人には大学病院の役割や考え方も身につけてほしいので、できれば半年から1年かけて大学病院に行き、勉強してもらいたいと思っています。長崎大学のほか、九州大学の総合診療科でも研修可能です。また、青洲会グループには色々な施設がありますので、クリニックに勤務して訪問診療をしたい、平戸市での離島医療や僻地医療をしたいといった希望に応じて、ご紹介ができます。できれば当科に医師を増やして、そこから定期的に各施設に派遣していく形を取りたいのですが、総合診療科で専攻医研修をしたいという人が増えないので難しいですね。医学部に入学した頃は総合診療医やジェネラリストに気持ちがあっても、大学というプロフェショナルな専門医がいる場所にいると、そうした専門医を理想の医師像として憧れるのは当然だと思います。しかし、病院には多数の疾患を合わせ持った患者さんがいらっしゃるので、病院総合診療医のニーズは高いです。治癒を目指すよりもケアする、付き合っていく診療が中心となっていく中で、どんな疾患でも受け、適切な科の医師と相談しながら診療を進めていける総合診療科の医師は必要とされていますので、学生さんにもニーズがあって、患者さんから感謝される科なのだということを伝えていきたいと考えています。

カンファレンスについて、お聞かせください。

大学病院のようにかっちりとしたものはありませんが、プロブレム抽出能力やプレゼンテーション能力を鍛えています。救急カンファレンスであれば、救急外来で診た見落としやすい症例、教育的な症例を共有する場ですし、内科カンファレンスは新患外来や入院患者さんの中での困難な症例、教育的な症例を共有する場となっています。もう一つは新患カンファレンスで、新規に入院された患者さんを科内で共有するための報告会のようなものです。ここでは診断に間違いがないかをチェックして、皆で共有し、何かあったときには皆でフォローし合えるようにしています。

カンファレンスでは専攻医の発言の機会は多いですか。

専攻医が受け持っている患者さんについては専攻医が発表します。救急総合診療科をローテートしている初期研修医がいれば、初期研修医も発表しますし、そういった場で伝える能力を鍛えています。初期研修医は患者さんの病気だけを見てしまいがちですが、専攻医になると、患者さんを帰すためにどうしたらいいのか、ご家族や周囲の環境など、初期研修医よりも広く見ることができるようになっていますね。

三浦先生の写真

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

私は女性ではないので、正確なところは分かりません(笑)。ただ、私がこれまで勤務してきたのは公的な病院が多かったのですが、そうした病院よりは配慮されているように感じます。現在の初期研修医にも既婚者が4人いますし、かつては初期研修中に出産した研修医がいました。女性に限らず、本人や家族に健康上の問題が起きたときには時短勤務や当直免除も可能です。院内保育所がある病院は増えてきましたが、当院には2カ所あり、医師で使っている人もいます。また、おじさんたちが使った部屋では嫌だろうということで、女性専用の当直室も作りました(笑)。

先生が総合診療科を選んだのはどうしてですか。

自治医科大学の卒業生ですから僻地に行かないといけないですし、僻地は専門医を取得しづらいという環境でもあります。僻地で内科系の診療をしていますと、内視鏡もエコーもとあれもこれもしなくては患者さんの健康問題を解決できませんので、自然と総合診療に傾いていきました。

総合診療科の医師はどのように診断されるのですか。

最初は経験に基づくイメージから考えますが、うまくいかないときは可能性を一つずつ挙げ、理詰めでいく手段を取ります。専攻医も少しずつそうなっていきますよ。経験を積むと直感的な診断ができるようになりますが、直感を優先すると非典型的な症状を有した症例の場合に誤診が多くなります。常にこの診断でいいのか、矛盾するところはないかなど、反対の方向からも見る姿勢が必要です。

先生の研修医時代の思い出をお聞かせください。

かなり病院に束縛されていましたし、外部の病院でアルバイトをしないと生活できませんでした。外科の研修中は病棟に朝早く行き、夜中も緊急手術で呼び出されるなど、長い時間を病院で過ごしていました。呼び出されても役には立たないんですよ(笑)。もともと内科医志望ではありましたが、やはり内科だと思ったのもその頃ですね。

先生は離島医療も経験されたのですね。

3年目に長崎県の対馬に行き、一人で外来をして、一人で当直するという経験をしました。あるとき心不全の患者さんが来られ、エコーなどの検査をしていたら、普通の人の半分以下しか心臓が収縮していないことが分かり、困り果てたことがあります。心筋炎かもしれないと疑い、勤務先の病院の上級医の先生を呼び出し、後方病院の先生にも連絡しました。対馬はものすごい山道が多いので、救急車に同乗してきた後方病院の先生は車酔いで吐きながら2時間かかって到着されたんです。結局、その患者さんは左冠動脈主幹部の心筋梗塞でした。心電図にはほとんど出ないタイプで、後方病院で心臓カテーテル治療を受け、途中で心臓が止まったりもしたそうですが、後遺症もなく、無事に回復されました。その後、外来でお会いしたときには「おお」と思いましたね。あちこちに迷惑をかけましたが、結果的には良かったです。後日談なのですが、それから似たような症状の患者さんが来られ、心筋梗塞だと思い込んで後方病院に送ったら、心筋梗塞ではなく、胆石発作だったことがありました。そういった経験から、周囲の人に迷惑をかけて怒られたとしても、恥を忍んで周囲の人の力を借りることが大切なのだと実感しました。

離島で学ばれたことは大きいですね。

患者さんをご家族まで含めて診るといった姿勢は離島で養われたことですね。私の場合は診療所ではなく、離島の中核病院に勤務していたのですが、そこでヘリコプターを飛ばすなどの判断をしたり、ある程度完結させることが求められました。若いうちからそういうプレッシャーや葛藤を経験し、その中で培われたものは大きいです。今の学生さんでも「経験して、自信がついたら離島に行きたいです」という人が多いのですが、若いうちに経験しておいた方がいいです。50代、60代といった子育てを終えた人しか離島に行けないという現状もあるので、子どもが小学校低学年のうちに離島を経験しておくと、総合診療科の医師としての力がつきます。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

自分で解決する手段を考えついて、実行できるようになってほしいです。周囲の力を頼っていいので、最初から上級医に任せるのではなく、一緒に調べて、一緒に治療を進めていく手段を学ぶことが重要だと思っています。人に何かを頼むときにはきちんと調べたうえで、自分なりの理由や根拠、考えを説明できないといけません。そういった方法を教えていければと思っています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

当院の2人はマイペースに真面目に努力し、順調に育っています。よく勉強していて、自分で調べたことを持ってくるので、「へえ、そうなの」と私も勉強になることがあります。専攻医が自分で考えるための資料の得方を教えるのが指導医の仕事なのだと思っています。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

2004年に必修化されてから随分と経ちましたが、早く専門医になって第一線で突き詰めて働きたいという人には足かせになっているように感じます。そういう人は最初から専門に特化した研修でもいいのではないでしょうか。でも、大多数の人が卒業時点では専門を決めていないので、あらゆる診療科の基礎をある程度の質を担保されている状態で学べる現状の制度はいいものだと思います。しかし、初期研修医には責任の所在がなかったり、17時以降は初期研修医に仕事を頼めないという問題もあります。経験を積んだ医師からすれば、最近の初期研修医の主治医感のなさは大丈夫なのかと心配です。頑張っている初期研修医も大勢いますが、17時に「お疲れ様です」と帰ってしまう人もいます(笑)。10年後には医師が余る時代になりますが、そこで活躍できる医師になるにはそのように悠長に構えていられないでしょう。そういったプロフェッショナリズム、責任感、主治医感をどのように教えていくべきか、いつも悩んでいます。初期研修医には「これから主治医になって、チームの一員として診ていくようになるので、主治医として、プロとして医療に向き合っていただきたい。自分の家族を患者として任せられるような仕事ができるように頑張ってください」と伝えたいです。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

過渡期にあるので、評価するのは難しいですが、専門医機構が全国の病院のプログラムの質の担保をしたのは必要なことであり、概ね賛成です。ただプログラムが細かく決められているので、自由度という意味ではもう少し緩くてもいいのではないかと思います。例えば総合診療医養成プログラムの3年のコースであれば、必須科目だけでどこも動かしようがなく、外科の研修などが入れられないのです。こうしたところが改善され、今の専攻医が指導医となった頃により良いものになっていることを期待します。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

若手医師がいわゆる9時5時の仕事をして、夜間の呼び出しもなく、ぬるま湯の状態で過ごさせる病院が本当のブラック病院だと思います。そういうところに慣れると、自分を磨く努力ができず、将来活躍できない医師になってしまいます。もちろん頑張っている初期研修医がほとんどで、こちらの頭が下がってしまうような人もいますが、人は何らかのノルマがないと頑張れないものです。病院選びではそこを見極めましょう。給与の良さよりも将来に向けて、どのような研修ができるのかを重視してほしいです。学会参加費の補助があるとか、病院がUpToDateなどと契約していれば論文検索も容易になりますので、そうした勉強のためのツールが整備されているかどうかも確認しましょう。

三浦先生の写真

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