主要な循環器疾患の一つに急性心筋梗塞がある。診療に当たっては、医師のみならず他のスタッフも最も緊張を要する疾患である。循環器疾患は病態が秒・分単位で変化することが多く、急性心筋梗塞も例外ではない。
急性心筋梗塞は何らかの理由で冠動脈に急性閉塞が生じ、閉塞部より末梢の心筋が虚血・壊死に陥る疾患である。心筋梗塞の診断がついた後は、次の2つのことに留意する必要がある。一つは、早期に冠血流再開(血行再建:血栓溶解療法、PTCA、CABGなど)を図ること。もう一つは、心筋が虚血に陥ったことに伴う各種合併症への適切な対応である。
本稿では、心筋梗塞の急性期合併症について述べることとする。国家試験でも急性期合併症に関する出題があり、重要である(既出問題を一部掲載)。
合併症は大きく分けて、電気的合併症と機械的合併症とがある。
電気的合併症は、虚血により心筋細胞が電気的に不安定になることから生じるものであり、心室頻拍・細動、房室ブロックがある。
心室頻拍・細動:心筋梗塞急性期はモニター心電図の厳重な監視が必要となる。心室頻拍・細動は突然出現する場合もあれば、心室性期外収縮が頻発し、移行してくる場合もある(参照問題A)。期外収縮や血行動態の安定した心室頻拍はリドカインを投与する。血行動態不安定の心室頻拍や心室細動は電気的除細動が必要である。
房室ブロック:右冠動脈は房室結節に血流を供給しているため、下壁梗塞ではブロックが生じやすい。程度が軽ければ、アトロピン投与で対処可能。血行動態が不安定の場合、完全房室ブロックの場合は一時的なペーシングを行う。たいていのブロックは、一過性のことが多い。
機械的合併症は、心筋虚血・壊死に伴い生じる。梗塞の範囲や部位によりポンプ失調、心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋不全・断裂などが生じる。
ポンプ失調:広範囲梗塞に生じやすい。心筋が虚血に陥れば収縮力が低下するので、ポンプとしての機能が低下し、心原性ショック、心不全に陥る。血行動態を維持しながら、早期の冠血流再開が必要である。
心破裂:前壁梗塞に合併しやすい。特に、高齢者(特に女性)、側副血行路なし、貫壁梗塞、高血圧は危険因子とされる。虚血で脆弱になった組織に圧負荷がかかると破裂しやすい。突然発生(Blow out型)、ショックに陥ったものはほとんど救命出来ない(参照問題B)。従って、急性期の血圧コントロールは重要である。
心室中隔穿孔:前壁中隔梗塞に合併する。左右シャントによる急激な肺血流量増加のため、呼吸困難が生じる。汎収縮期心雑音が聴取され、心エコーにてシャント流が認められる。速やかに穿孔部の閉鎖が必要となる(参照問題C)。
乳頭筋不全・断裂:僧帽弁は乳頭筋・腱索・弁葉とにより構成される。このうち、後乳頭筋は前乳頭筋と異なり支配血管が一本のみのため、虚血に陥ると乳頭筋不全あるいはその程度が強いと断裂、そして急性の僧房弁閉鎖不全が生じる。呼吸困難の出現、収縮期心雑音、心エコーでMRを認める。乳頭筋不全の場合は、内科的治療でもよいが、断裂の場合は手術が必要となる。
その他の合併症としては、急性期の心外膜炎があり、この場合、吸気時に増強する胸痛、心電図にて鏡像現象を伴わないST上昇を認める。
急性心筋梗塞の治療は、冠血流再開が第一である。再灌流が早期になされれば、なされない場合よりも合併症の発生頻度は減少する。しかし、再灌流の有無に関わらず、合併症の初期対応を誤る(発見・治療の遅れ等)と重大な事態を招くことがあるので、発症48~72時間以内は十分な注意が必要である。