異常ヘモグロビン症の代表に鎌状赤血球症があります。グロビンβ鎖の突然変異であり、赤血球内低酸素で溶血発作を起こす病気です。アフリカ黒人に多く見られる疾患で、日本の医者には馴染みの薄い病気ですが、なぜこんな疾患が常染色体優性遺伝という強い遺伝形式でこの世界に存在するのでしょうか。どうやらその秘密は、マラリアにあるようです。
マラリアは年間200万人の死者を出す世界で最も重要な感染症です。なんと、わが国でも年間100人が発症しています。
原虫のスポロゾイト(幼虫)が赤血球の中へ入り込み、酸素を吸い、ヘモグロビンを食べまくって増殖し、溶血させて次の赤血球へ。繰り返す溶血発作と高熱のため死に至ってしまう病です。
ところが、鎌状赤血球を持っている人の場合、マラリアに感染すると、たちまち赤血球が酸素不足に陥って溶血を起こしてしまいます。
もちろん、溶血はきついもので寝込んでしまうほどですが、死ぬまで発作を繰り返すよりは、1回の発作で原虫の生活環を終わらせた方がましです。
こうして、この遺伝子がマラリア発生地で選択されていくというわけです。
同様な機構は、G6PD欠損症(赤血球が酸化ストレスに弱い)、PK欠損症(エネルギー不足に弱い)にもあてはまります。ただし、G6PD欠損症は伴性遺伝、PK欠損症は常染色体劣性遺伝です。 こうして、マラリア発生地に溶血素因を持つ人が多発することになるわけです。
閑話休題。
現在の日本は少子高齢化社会です。産めよ殖やせよ政策はうまくいきそうにありません。今後は、海外移民の受け入れ、混血化での人口の維持が必要のようです。そして、外国移民で最も重要な問題はエイズと宗教と言われています。今回取り上げた異常赤血球症も、今でこそ馴染みのない病気ですが、混血化に伴い将来的に確実に増えてくる病気です。このため、国試には必ず出題されるであろう病気ということになります。もっとも、メインで出題されるわけではなく、選択肢の中の一つに登場することでしょう。
治療は、マラリア感染のような赤血球にストレスを与える要因を取り除くこと(代謝亢進状態や、活性酸素を作り出す薬剤など)。アメリカでは、抗がん剤のハイドレアを投与して、胎児HbFの再誘導療法も行われています。