初期研修インタビュー

2024-06-01

北九州市立八幡病院(福岡県) 指導医(初期研修) 天本正乃先生 (2024年)

北九州市立八幡病院(福岡県)の指導医、天本正乃先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2024年に収録したものです。

北九州市立八幡病院

〒805-8534
福岡県北九州市八幡東区尾倉2-6-2
TEL:093-662-6565
FAX:093-662-1796
病院URL:https://www.kitakyu-cho.jp/yahata/

天本先生の近影

名前 天本 正乃
北九州市立八幡病院 副院長 / 小児神経内科主任部長 / 指導医

職歴経歴 1961年に福岡県北九州市で生まれる。1985年に久留米大学を卒業後、久留米大学病院、北九州市立八幡病院、社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院、福岡県済生会八幡総合病院で勤務したのち、1991年7月に北九州市立八幡病院に勤務する。2015年4月に統括部長、2019年2月に副院長に就任する。
日本小児科学会小児科専門医・認定小児科指導医など。
日本小児神経学会、日本てんかん学会、日本小児救急医学会、日本神経感染症学会にも所属する。

北九州市立八幡病院の特徴をお聞かせください。

 当院は公立病院です。公立病院は市民の最も身近にあり、頼れる病院、地域に根ざした病院であるべきと認識しています。その中で特に担っている主な役割は救急医療、小児救急、災害医療です。もちろん慢性疾患を含めた総合病院としての一般診療は日常業務として行っています。特徴である成人と子どもを対象とした救急医療で最も重視する点が24時間365日、断らない医療です。小児、成人に関わらず、幅広く受け入れている救命救急センターは政令指定都市である北九州市に2つしかなく、そのうちの1つが当院です。2023年度の救急車対応事例は約5000台と年々増加傾向にあります。特に2024年度からは救急の初療を行う救急科の医師も増え、さらに充実した救急対応ができるようになりました。満床でもCPAはお断りしないという体制で臨んでいます。コロナ診療の重点拠点としての役割も3年ほど担ってきましたが、現在もそれを持続しています。最後までコロナ対応病院であることは福岡県からの要請でもあり、当面は市立病院の機能の一環として残しています。さらに公立病院という立場から北九州地域全体の防災の担い手でもあり、災害拠点病院の頂点にあるのが当院です。敷地内にある図書館の上に大地震などの災害時に災害医療作戦指令センター(Disaster Medical Operation Center:DMOC)が北九州市医師会医療救護計画に基づき設置されています。このたびの能登半島地震でもいち早くDMAT及び、医師会からの要請でJMATも現地に向かいました。当院は「災害拠点支援センター基地」となり、自治体からの命を受けて、いわゆる北九州地域で災害が起きたときには北九州全域の災害拠点として重大な役目を課せられています。以上のように、救急、小児救急、災害医療の3本柱が当院の特徴です。

天本先生がいらっしゃる小児科についてはいかがですか。

 当院の全医師数は初期研修医を含めて87人、そのうち小児総合医療センターとして小児科医はスタッフ24人、小児科専攻医5人を合わせると29人であり、全医師数の33%を占めています。小児科医は大学の派遣ではなく、全国から公募しており、出身地も出身大学も様々です。今いるスタッフの中には当院で初期研修や専攻医研修を終えて一旦卒業し、自ら専門性を求め関西や関東の病院で修行して、小児科専攻医とは別にプラスの専門医を取得した後に再び当院に戻ってきてくれた卒業生が多数おり、専門性を活かした現在の小児科診療の大きな力になっています。例えば移植も可能な血液腫瘍チーム、アレルギー、神経、腎臓、糖尿病、さらに全国的に有名な超音波のスペシャリストが小児臨床超音波センターを立ち上げ、年間5000例以上のエコー診療を行っており、大人気の研修先となっています。短期の研修も受け付けていますが、現在は順番待ちの状態です。

小児救急センターも有名ですね。

 もう一つの主軸であり、病院の使命の一つである小児救急センターは24時間365日止まることなく稼働し、年間小児科受診患者数は約4万人となっています。この数は圧倒的な人数ですし、北九州市内の小児救急患者の6割から7割を占めており、間違いなく北九州小児救急の第一の担い手です。研修医にとっては症例のシャワーと評判です。

小児科のそのほかの特徴をお聞かせください。

 小児の疾患は内科系だけでなく、外科系、例えば交通事故や転落などの事故対応、虫垂炎などの通常は外科や脳神経外科、整形外科、形成外科が担当する外傷系も初療は必ず小児科が行うことです。必要に応じてほかの診療科とコネクトし、入院になれば小児科が全身管理を受け持ちます。さらに小児の虐待は近年社会問題になっていますが、当院は福岡県の虐待対応の拠点病院にもなっており、おそらく国内でも最も活発に活動しているチームの一つです。多職種からなる虐待対応チームは医師、看護師だけでなく、司法や警察、検察、児童相談所、法医学者などをメンバーとする家族と子どもの支援カンファレンスを毎月定期で開催し、地域の虐待児童の情報共有、虐待児の早期発見、さらに家族の支援を目的に、勉強会を兼ねて行っています。

北九州市立八幡病院の初期研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。

 特徴は何と言っても救急ではないでしょうか。救急と言えばただバタバタと忙しく、野戦病院のような印象を持たれるかもしれませんが、決してそんなことばかりではありません。救急の現場は全ての医療の入口です。そこで学べる疾患は慢性、急性を問わず多種多彩であり、科の垣根を超えて外因系、内因系と幅広くあります。初期研修医はまず初療を学び、それから各専門領域へと繋げていくスキルを身につけていきます。医師になったばかりのときの研修でそれを経験できるというのは今後の医師人生にとって計り知れないメリットがあると思います。救急現場というのはある意味、人生の縮図のような場所です。病気だけでなく、ご家族との対応を学び、自分がどんな医師になりたいのか、どんな科やどんな職場が向いているのかを考えるのに最も適した場所を提供できると思います。また初期研修では色々な専門科を回りますが、その垣根をなるべく取り払うようにしています。当院には様々な大学出身の指導医がおり、学閥もありませんので、非常に手厚いオープンな指導を受けられることも特徴です。

天本先生の近影

自由度の高さについてはいかがですか。

 当院は初期研修医の人数が1学年2人なのですが、その少なさゆえのメリットの一つが自由度の高さです。「救急を2カ月回ったが、あと1カ月延ばしたい」「次は外科の予定だったが、内科が興味深かったから循環器内科に変更して回りたい」などの希望があれば随時面談し、認められた場合はローテート先の診療科を途中で自由に変更できます。なるべく希望に沿えるようなローテート計画を随時行っています。当院では「初期研修医ファースト」を心がけ、皆で育て、いつかはここに戻ってきたいと希望してもらえるような病院になりたいと考えています。医師にとっての一生に一度の初期研修を本当に充実したものにしてほしいと病院全体で希望しています。

初期研修医の人数はどのくらいですか。

 当院の初期研修医はこの数年2人ずつと少人数なので、同期生が少ないことに不安や寂しさを覚えてしまうかもしれませんが、少人数での研修の良いところもあります。それは初期研修医1人あたりの指導医数が多く、きめ細やかな研修が行われるということ、経験できる症例や手技の獲得ができやすいこと、病院全体でどの職種の方々からも名前を覚えていただき、お声がけ、手助けをしていただけることです。また当院の大きな特徴の一つに他院での初期研修が何らかの原因でうまくいかず、中断された研修医を毎年複数人引き受けていることが挙げられます。結局どの年も同期は4~5人、さらに大学病院のたすきがけや近隣の総合病院から数カ月単位で救急や小児科の研修医を受け入れているため、多いときは10人以上の初期研修医がいる時期もあります。決して寂しくはないのではと、そばで見ていて感じます。

他院からの初期研修医の受け入れはホームページでも出していらっしゃいますね。

 初期研修中断となったら当院だというぐらい、毎年いらっしゃいます。ただ、どなたでもいいというわけではなく、そういう方々にはどうしてそうなったのかという聞き取りをきちんと行うこと、カウンセリングや医療機関などの受診を通して十分に回復しているということを確認したうえで、当院で受け入れています。研修にあたってはどういうことを変えればうまくできるのかを話し合ったうえで始めています。今のところ中断で来られた方は全員が最後まで初期研修を行い、専攻医になっていますので、比較的うまくいっているのではないかと思います。

先生はなぜ小児科を選ばれたのですか。

 ものすごく子どもが好きであるというような強い意志があり、深く考えたわけではなく、これからの将来を担っていく子どもの診療にあたる医師になれば、自分のモチベーションが途切れないのではないかという思いで小児科を選びました。私の頃は今のような臨床研修制度がなく、学生時代に決める必要があったのですが、ぎりぎりの時期に決めました。

研修医時代の思い出をお聞かせください。

 大学病院で研修しましたので、重症の患者さんや亡くなっていく患者さんを診ていたときに患者さん一人ではなく、その子どもさんを支えるご家族、特にご両親の存在を大きく感じました。子どもは少しずつ大人になっていきますので、将来を見越して、ご家族を巻き込んでの全人的な医療に携われることはとても幸せなことなのだと、医師になって最初の時期に思いました。

「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。

 乳腺外科志望だった医師が他院で研修中に心折れ、紆余曲折の末に初期研修中にお世話になった精神科へと専攻を変え、自らの経験を活かしたいと今後のしっかりした目標を持てたことは良かったと思います。研修途中で結婚し、妊娠、出産までされて初期研修をきちんと終えた女性医師やもともと中学生のお子さんがいながら医学部に進学し、2人の子育てをしながら初期研修を終了したたくましい医師もいます。当院は色々な立場を尊重し、理解して研修をサポートし、多少時間はかかっても研修を全うできる環境づくりを目指していますし、私も色々な研修医がいることが興味深く、楽しませてもらっています。

天本先生の近影

指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。

 いつもオープンでいることでしょうか。世話を焼きすぎることなく、自主性は尊重し、そのかわりに困ったときやつまづきそうなときはいつでも相談してほしいという姿勢を心がけています。

最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。

 私たちの時代は旧体制で「どこに行って研修してきなさい」という指示で動く、受け身の時代でしたが、現在は自分で研修先を決められるわけですから、ひたすら自由で羨ましく思う反面、自らその責任を負うことになっている分、大変だろうなと思います。そのうえで医師としての理想像や展望をしっかり持っている人が多い印象を受けます。だからでしょうか、ともすれば初期研修終了後の専攻を意識するあまり、長くその専攻科を希望しがちです。しかし他科を研修できるのはおそらくこれから続く長い医師人生の間でこの時期だけです。あまり先走ることなく、今しかできない貴重な経験を積んで、医師としての幅を持たせることも大切です。一途で一生懸命に張り詰めているような気がしますが、自分の気持ちに余白や余裕を持った方が楽に楽しく研修できますし、そういう初期研修をお勧めしたいです。

研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。

 初期研修を始めるにあたってはあまり気構えず、分からなければ誰にでも何でも聞くということ、コメディカルスタッフの方々を大事にしましょうということですね。常に謙虚に学ぼうという姿勢をきちんと表に出して研修することが大事ではないかと思います。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

 制度については特に意見を持ち合わせていません。時代によって制度は変わりますし、どの制度にもいい点、悪い点があると思うからです。それに翻弄されるのはいつも研修医ですが、どんなシステムであってもその時代においては皆が同じ条件です。どんな制度であっても、そこで自らの道を決めるしかないと思います。ただ、そのときにこれしかないというような頑固な決定は疲労し、心折れることもあるかと思います。思い通りにいかなかったときに、そうでなければ絶対に駄目なわけではないし、いつでも修復可能という柔軟性を持ち合わせていてほしいです。気持ちに余白を残しておけば、どのような制度であっても得ることは変わらないかと思います。

専門医制度についてもご意見をお願いします。

 専門医制度についてもほぼ同じ意見です。小児科は新しい制度になっても大きく変わっておらず、制度的な問題は特にありませんが、やはりその科の専門医は取った方がいいですし、その後のさらなる専門に関してはそのときの自分の置かれた立場や環境によって変わるでしょう。取れたら取った方がいいと思いますが、制度自体は年によって変わりますので、あまり述べることはありません。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

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