指導医インタビュー

日本赤十字社

武蔵野赤十字病院

東京都武蔵野市境南町1-26-1

名前
長田 薫 先生
総合診療科部長、臨床研修部長、指導医
職歴経歴
1955年に東京都田無市(現 西東京市)で生まれる。1983年に旭川医科大学を卒業後、東京医科歯科大学旧第一内科に入局し、東京医科歯科大学医学部附属病院、武蔵野赤十字病院で研修を行う。1984年に武蔵野赤十字病院血液内科に勤務する。東京都立駒込病院での勤務、東京医科歯科大学医学部附属病院での研究生活を経て、1989年に東京逓信病院血液内科に勤務する。1990年に武蔵野赤十字病院血液内科に勤務する。1997年に武蔵野赤十字病院でエイズ診療に携わる。2000年に武蔵野赤十字病院で輸血部の立ち上げを行う。200
学会等
日本内科学会総合内科専門医・認定内科医、日本プライマリケア連合学会認定医、日本病院総合診療医学会認定医、日本病院総合診療医学会評議員、日本輸血細胞治療学会会員、日本医学教育学会会員、がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了、東京医科歯科大学臨床教授など。

武蔵野赤十字病院の特徴をお聞かせください。

赤十字ブランドを支持してくださる患者さんに支えられ、昔から地域の病院として、地域医療に貢献してきました。特に内科が充実し、内科医だけで70名以上います。各専門医の認定施設になっていますし、肝疾患診療連携拠点病院にも認定されていますが、全国的には各県の大学病院が認定されていますが、東京都では当院と虎の門病院だけです。病床数の割に医師が多い病院で、全国から医師が勉強に来ています。部長クラスの医師に出戻りが多いのは、仕事がしやすい病院だからでしょう。初期研修後に病理科に進む人が多いのも、市中病院では珍しいことですし、自慢です(笑)。採用にあたっては色々な思いを持った人に来ていただきたいと考えています。

ほかの特徴として、何か挙げられますか。

医療事故対策にはかなり以前から力を入れています。 航空業界のインシデントレポートシステムを早くから取り入れ、原子力安全推進室やゼネコンの安全室など企業のリスクマネージメントに携わる方々と定期的に勉強会を開いたりしました。信州の佐久総合病院や福岡の麻生飯塚病院をはじめ同じ志を持つ医療関係者を集めてNDP;national demonstration project を形成し、定期的に早稲田大学理工学部の研究室と共に医療安全の推進を計りました。その事が現在の医療安全学会の礎になっていると思いますし、現在自治医科大学で医療安全で活躍されている河野龍太郎先生も、NDPの当初から一緒に活動し、いろいろ教えていただきました

長田先生がいらっしゃる総合診療科についてはいかがですか。

総合診療科は2007年に内科の後期研修医を鍛えるために作られた診療科です。2004年に現在の初期臨床研修制度が始まり、初期研修医がスーパーローテートを行うようになりました。しかし、新しい臨床研修制度ではローテートする診療科が多岐に亘るため、初期研修を終えたばかりの後期研修医は内科医としてのトレーニングが明らかに不足していました。しかし、臓器別内科系専門診療科では、専門外のトレーニングをする事が不可能でした。多数の併発症を有する患者に対応するために、総合診療科が必要だったのです。総合診療科の位置づけはそれぞれの医療施設で異なります。当院の総合診療科は振り分け型ではなく、緊急入院から退院迄を診療する自己完結型の総合診療科です。高齢者が多くなり、複数の疾患を持っている患者さんも少なくありませんから、ほかの診療科や救急外来と協力しながら、診療にあたっています。近隣の総合病院から多数の併発症があり該当する診療科がないとの理由で、患者さんが紹介されて来る事もあります。

初期研修のプログラムの特徴にはどういったことが挙げられますか。

救命救急センターで三次救急の研修が4カ月あることです。1年目に2カ月、2年目に2カ月が組まれているのですが、これは際立った特徴でしょう。ここで重症患者の全身管理を学びます。ほとんどの病院の救命救急センターはER形式で、初療のみになっていますが、当院は入院後も診ます。また、1年目2年目に一ヶ月ずつ総合診療科研修があり、2次救急対応や緊急入院の対応をします。2年目の初期研修医は認知症を含めた併発症多数の患者さんの対応もかなりできますし、戦力になっていますね。総合診療科では転院調整や在宅調整なども研修します。

感染症の教育にも力を入れていらっしゃいますね。

初期研修医は発熱等で救急センターを受診した患者から、各種培養検査を実施し、自らグラム染色をするように指導されています。3名の感染症医が、研修医が実施した喀痰や尿のグラム染色を毎日レビューして指導をしています。 また、抗菌薬使用法も徹底的に鍛えられ、適切な抗菌薬が使用できるようになります。

初期研修医の人数はどのくらいですか。

10人です。半分は外科系に進みます。しかし、当院での初期研修では内科で全身管理をしっかり学びます。初期研修医のうちに虫垂炎の手術を多く行うことが大事なのではありません。手術の前後の全身管理や評価の仕方を学ぶことの方が重要です。

全身管理を学ぶためのプログラムなのですね。

規定では救急1カ月、または麻酔科1カ月なのですが、当院では麻酔科2カ月、総合診療科2カ月、三次救急4カ月、感染症科1カ月ですので、全身管理を9カ月に亘って学びます。したがって、選択研修や外科研修は2カ月しかありませんが、外科医を目指す研修医に向いていないプログラムではありません。全身評価や全身管理という基礎ができていないと、どの診療科に進んでも伸びないと考えています。

指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。

自主性を重んじ、出来るだけ口出しをせずに見守ることです。悪い意味では放ったらかしかもしれません。1年目の夏過ぎには夜間の救命救急センターでの仕事をするようになります。もちろん、大勢の指導医が控えていますが、ファーストタッチは1年目が一人で行います。初期研修医に救急医療を担当させることにはリスクマネジメントの観点から賛否両論ありますが、初期研修医による事故は、実際は多くありません。むしろ、事故はスキルがあるからこそ、起きるものなのです。また、当院では2年目の初期研修医が中心となって、勉強会を行っています。ローテートのプランもそこで出てきたものを私が承認するという形です。学年ごとにカラーの違いはありますが、火曜、水曜、木曜、金曜に勉強会があり、こちらがテーマを出す場合もあれば、初期研修医がプランを立てることもあります。当院は老舗ですので、ビッグネームの先生方が講演に来てくださる機会に恵まれています。こちらがノルマを課したわけではないのに、初期研修医が「この先生に来てほしい」と、自分たちで選んでいます。

最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。

私が学生の頃は今の学生よりもよく遊んでいました(笑)。上の医師に言われたとおりに行い、上の医師の背中をみて学ぶという時代でしたが、今の研修医はキャリアプランを自分で考える人が多いですね。しっかり将来を見据えていると思いますが、その分、キャリアプランに役立たないことをしようとしない可能性もあります。しかし、当院ではキャリアプランも考え向上心もありながら、比較的素直で明るい人柄のよい研修医が多いと思います。それは当院では採用試験では学力試験を課さず、長時間の面接で人柄を重視して採用しているからかもしれません。面接の評価は医師のみならず、看護師や事務部門からの評価もあり、最終的には「この若者と一緒に臨床をしてみたい.この若者を教えてみたい」とういう点が大きく評価されます。

「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。

色々な人がいました。医療と直接関係があるかどうかは不明ですが、異色の人材としては、探検家、写真家として単身でアマゾン、シベリアなど人類起源の道を辿った過酷で壮大なグレートジャーニーを敢行した関野吉晴さんは、当院の研修OBです。当院は様々な個性的な研修医がそれなりに楽しく研修したようで、懐が深い病院ですし、いい意味でファジーさがあります。女性医師も4割いますよ。

研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。

当院での初期研修後にほかの病院でさらに実力を伸ばして、活躍している医師は多くいます。ほかの病院に15年ぐらい勤務したら、今度は当院に戻ってきて、後輩を指導してほしいと言いたいですね。当院育ちの医師がほかの病院で活躍しているからこそ、初期研修医が集まってくるのです。卒後3年目から5年目の初期研修医も大勢いますが、ぼーっとしていると、仕事を取られてしまいます。しかし、それもいいのではないでしょうか。自主的に進めてほしいので、こちらの型を押し付けようとは思っていません。

先生の研修医時代はどのようにお過ごしでしたか。

昭和でしたね(笑)。色々なことをさせていただきました。当時は患者さんの権利が強くない時代でしたので、医療がしやすかったですね。当院に来たときは看護師さんの優しさに驚きました(笑)。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

2年では短いです。2年目は1年生を教えますので、秋に力が伸びるんです。しかし、今はその時期に就職活動をしなくてはいけません。当院では「もう1年残って、総合診療科で研修しなさい」と言っています。そういうキャリアを辿った医師たちは今、大学病院にいますが、相当に活躍していますよ。後期研修後は同じところに延々といないで様々な医療機関を経験する方がいいですね。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

初期研修で良い研修が出来るかは本人次第で、病院では決まりません。病院の規模、医師数、救急車の搬送台数ではないのです。初期研修医が4人ほどの規模の病院でしたら、それほど救急搬送が多くなく、病院全体が初期研修医を大事にしてくれ家庭的な雰囲気の中で、じっくり研修できるメリットがあります。また、大規模な病院のメリットは大勢の仲間と勉強会ができ、かつ担当が直ぐにはまわってこないことでしょう。一方で、当院みたいな野戦病院が向いている人もいますので、自分に合ったところを選びましょう。勉強しようと思えば、ネットなどのツールがありますが、患者さんから勉強するのが一番です。患者さんのところに何度も足を運ぶと、一生忘れない勉強になりますよ。私たちも当院のみに役立つ医師を育てているのではありません。初期研修は基本的なスキルを学んだり、コモンディジーズを診ることだけではなく、医師としてのコモンセンス、医師としての態度を磨く時期です。2年間で培った医師としての態度は一生のものです。この2年間にどれだけ患者さんに近づけるか、どれだけ患者さんに寄り添う態度を身につけるかが大切です。

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