指導医インタビュー

公益社団法人 地域医療振興協会

東京北医療センター

東京都東京都北区赤羽台4-17-56

名前
南郷 栄秀
総合診療科医長、指導医
職歴経歴
1973年に東京都品川区で生まれ、新宿区で育つ。1998年に東京医科歯科大学を卒業後、虎の門病院で研修を行う。2002年に虎の門病院分院内科総合診療科に勤務する。2007年に東京北社会保険病院(現 東京北医療センター)に勤務する。2007年に東京医科歯科大学医学部臨床講師を兼務し、2009年に東京医科歯科大学医学部臨床准教授に就任する。専門は総合診療、EBM、医学教育などで、全国で「正しいEBM」の普及活動を行っている。
学会等
日本プライマリ・ケア連合学会理事・認定医・指導医、日本内科学会認定内科医、総合内科専門医指導医、日本臨床疫学会臨床疫学上席専門家、日本医学教育学会認定医学教育専門家など。

東京北医療センターの特徴をお聞かせください。

地域医療振興協会の基幹病院であり、多くのスタッフが日本各地の僻地などへ医療支援に出かけています。東京都北区では唯一の公的病院ですので、病診連携を進めながら、急性期医療を中心に行っています。一方で、周産期医療、小児夜間医療、救急医療にも力を入れています。

東京北医療センターの初期研修の特徴もお聞かせください。

3つあります。1点目は地域医療研修が充実していることです。多くの臨床研修病院の地域研修が1カ月ですが、当院は3カ月あります。これは全国組織である地域医療振興協会の運営する地域病院や診療所に行くもので、山間僻地や漁村などでの医療を経験します。そういった医療機関は地域で唯一の存在である場合が多く、地域の健康問題のすべてをカバーする中心的な役割を担っています。全国的に有名な指導医も揃っていますので、見学にとどまらず、外来、訪問診療、行政との保健活動などを主体的に学ぶことができますね。自ら考える力がつきますので、人気のある研修です。

2点目の特徴をお願いします。

EBMに強くなることです。医療行為を行うときに診断法や治療法の効果がどれくらいかを1つ1つ考える習慣がつきます。EBMとエビデンスはイコールではありません。目の前の患者さんでエビデンスを使う際には、患者さんの病状はどうなのか、どんな手術や検査ができる現場の環境なのか、患者さんのご希望は何かといったことを見極めなくてはいけません。リスクを承知で手術をしたい方、確実な効果を望む方、副作用を気にされる方、経済的な制約のある方など、患者さんのご希望は様々です。さらに、医療者の臨床経験も大事です。EBMは臨床経験を排除するものだという思い込みがありますが、それは間違いです。エビデンスは研究の結果に過ぎないので、EBMの考え方ではエビデンスに反する判断をすることもあるのです。そこで、当院では研修医がEBMの手法を使って自ら考え、一人ひとりの患者さんにベストな医療を提供するトレーニングを積んでもらっています。また、生涯学習のツールとしてのEBMでもあるのですね。3年目以降に「1人診療所」や専門医がいない小規模病院に勤務する研修医もいますので、「魚を与えるな、釣り方を教えよ」の原則で、湧いた疑問について自ら調べて、解決する力を養っています。当院の研修医は主治医として診療方針を自分で決めていかなければなりませんから、皆、自然に調べ物が得意になっていきますよ。

3点目はどのような特徴でしょうか。

ハーフディバックによるoff the job trainingです。1年次は週に半日、センターに集まって地域医療の視点での勉強会の機会があります。初期研修の2年間で患者さんはたくさん診たけれども振り返ってみたら少しも勉強しなかったということがないように、勤務時間内に勉強の時間を設けています。2年次は3年目以降に地域に出ることに備えて、1年間かけて継続的に内科初診外来を行います。初めての外来は不安がありますが、当院は指導医が専属のプリセプターとして後ろに控えていますので、いつでもすぐに相談できる体制になっています。

現在、初期研修医は何人いらっしゃいますか。

2年目が10人、1年目が9人です。現在の臨床研修制度が始まって14年になりますが、当院は開始以来ほぼフルマッチを続けています。人数としてはこれが限界ですね。

指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。

EBMでは患者さんごとにベストな個別化医療をしようとしますが、研修医教育でも同じだと思っています。したがって、研修医の個性に合わせた教育を心がけています。振り返りを重視し、やりっ放しにすることなく、いい経験を積んでいけるようにしています。どこが良くて、どこが良くなかったのか、良かったところは意識して伸ばすようにして、良くなかったことをどう改善していけばいいのかというフィードバックを行い、経験を無駄にせず、研修医が効率よく成長できるような指導を心がけています。

最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。

優しく、ソフトな人たちが増えたと思いますね。昔は人を診ることよりも病気を診ることに重点が置いている医師が多かったですが、今の研修医にはそういう人は少ないように思います。

先生はどのような研修医時代を過ごされましたか。

初期研修を虎の門病院で行うことにしたのは一つの科をローテートする期間が3カ月と十分に長い期間だったからです。1カ月だと慣れるのに精一杯で物足りませんが、3カ月あれば自分の考えを医療に反映させるところまで到達できます。聖路加病院などはスーパーローテートを行っていましたが、自分にはあれもこれも習得するのは困難だろうと感じました。虎の門病院は単科ローテートで、一つの科を3カ月ずつ回れるというのは当時としては珍しかったですね。

先生はなぜ総合診療科を選ばれたのですか。

たまたまという感じですね(笑)。一般内科の外来をしていたときに色々な疾患を診るのが楽しかったのがきっかけです。虎の門病院の内科総合診療科の立ち上げに誘われたのがきっかけでしたが、内科だけは良くない、総合診療科にしたいと思い、2007年に当院に来ました。

研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。

言いたいことだらけです(笑)。患者さんにはそれぞれの事情があります。こちらがイラっとしたり、納得いかない行動をされることがありますが、その場合に非難したり拒絶するのではなく、なぜそういう行動を起こすのか、患者さんのナラティブを掘り下げることをしてほしいです。医師が興奮しているとうまくいかないものですが、クールダウンして、患者さんそれぞれの生い立ちや出来事に目を向けると、案外その行動は納得できて冷静に対応できるはずです。

現在の臨床研修制度はいかがですか。

賛否両論ありますが、私自身が受けた初期研修は内科のストレートプラスアルファの研修のみで、小児科や産婦人科はやりたくてもやれなかったですから、今の研修医が羨ましいですね。医師になりたての、頭が柔らかい時期に学生実習とは違った立場で多くの診療科を回れるのはいいことです。1カ月しかないローテート期間で何が分かるのかという意見もありますが、そこから得られるメリットの方が大きいのではないでしょうか。

新専門医制度についてのご意見をお願いします。

始まったばかりで混乱が多いですが、若い医師にきちんとした研修を行うシステムを作ることは良いことです。私はこの制度が始まる前から質にこだわって教えていましたし、教育自体は変わりません。ただ、キャリアパスは人それぞれで、進路が変わる人もいます。これまでは簡単だった進路変更がこの制度では難しくなりましたので、医学生や初期研修医には簡単に進路変更できなくなったことを知っておきましょうと話しています。そのためには10年後、20年後の自分の姿を想像してみると良いです。先々のことまで考えが回らないという人もいますが、何科を専門にするのかというより、大学病院にいるのか、市中病院にいるのか、地域の診療所にいるのか、地元に帰っているのかぐらいの漠然としたもので良いので、働き方のイメージを持っておいてほしいです。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

全ての人にとってのベストな研修病院はありません。それぞれ到達度や性格が違いますから、自分自身に合った病院を見つけるといいですね。すべての病院でメリットもデメリットもありますが、病院のサイトなどではいいことしか書いてありません(笑)。だからこそ見学に行って、指導医よりも研修医の話をよく聞いて、困っていることや不満なことを尋ねてください。そういった点が自分に受け入れられるのであれば、その病院を選ぶといいと思います。

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