指導医インタビュー

熊本赤十字病院

熊本県熊本市東区長嶺南2丁目1番1号

名前
加藤 陽一 熊本赤十字病院第一救急科副部長 指導医
職歴経歴
1976年に栃木県足利市で生まれ、神奈川県横浜市で育つ。2002年に富山医科薬科大学(現 富山大学)を卒業後、富山医科薬科大学附属病院(現 富山大学附属病院)で第二内科研修医となる。2004年に在沖縄米国海軍病院インターンとなる。2005年に株式会社東京海上日動メディカルサービス査定医となる。2006年にBeth Israel Medical Center, NY, USA Department of Emergency Medicineにレジデントとして留学する。2009年に熊本赤十字病院救急部に勤務する。2013年に京都府立医科大学救急医学教室助教に就任する。2015年熊本赤十字病院第一救急科に勤務する。2016年に熊本赤十字病院第一救急科副部長に就任する。
学会等
日本救急医学会救急科専門医、the American Board of Emergency Medicineなど。

熊本赤十字病院の特徴をお聞かせください。

月並みな言い方ですが、総合力が高いことが当院の特徴だと思います。大学病院のような病院でも色々な科がありますので「総合力があるよ」という言い方をすることもできますが、当院の総合力は科の豊富さだけでなく、救急科にしても総合内科、外科、小児科といったメジャーな科が常に総合医療を目指していることにあります。各科の医師がジェネラリストを目指して各科の診療をしているという面での「総合力」の強さですね。救命救急センターを持っていたり、ドクターヘリの基地病院でもある高度急性期病院の中で、各科の医師の総合力が高い病院は意外に稀なのではないでしょうか。ほかの特徴としてはe-レジフェアでも売り込んでいることですが「何でもやりたがる、ちょっと変わった病院」ということです。当院は全国の赤十字病院の中でも数少ない国際救援の拠点病院です。昨日まで一緒に働いていた同僚医師、看護師、事務のスタッフ、放射線技師が旅行では絶対に行かないような紛争地や被災地に突然行くんです。少しすると帰ってきて、何もなかったかのように働いているんですよ。ほかの病院では大きなことなのでしょうが、当院では日常的によくあります。

熊本赤十字病院の救急科の特徴もお聞かせください。

当院の救急を皆さんに説明するときは「一言で言うとERだ」と言っています。ERという形で救急を始めたのはかなり古く、老舗の部類に入ると思います。ER型の救急を行いながら年間8000台を超える救急車とウォークインの患者さんを含めると、年間6万件を超える数を診療していますので、歴史と実績を兼ね備えたERですね。そこに救命救急センターがありドクターヘリを基地病院として運用しています。熊本県の災害拠点病院の中で唯一の基幹災害拠点病院になっています。救命救急センターやドクターヘリはER型の救急の対極にある三次を中心にした救急ですが、それを同じ施設の中で有機的に繋げながら行っているER型の病院は全国にも多くはないでしょう。

院内の雰囲気を教えてください。

市中病院は各科の垣根が低いとよく言われますが、当院もご多分に漏れず科ごとの壁をあまり感じない病院ですね。朝の医局会は平日の8時半に医師が一同に集まり、前日からの当直体制や救急からの申し送り、その日の重要な予定、周知しなければいけないことなどの発表が行われます。場合によっては院長先生のお小言もあります(笑)。ほかの病院は科ごとのカンファレンスが中心で、医師が全員参加というカンファレンスは少ないようです。当院に見学に来られた病院がこの様子を見て「うちの病院でも始めました」という話を何件も聞きました。そういう意味で当院の医師が皆でやっている医局会は良い例ではないかと思います。

後期研修プログラムの特徴を教えてください。

来年度からは新専門医制度になり名称も専攻医の研修になりますが、そのプログラムも組んでいます。特徴は珍しい患者さんの状態や症例も含めて経験することができることです。ハイボリュームの患者さんですから、それだけあると多様性が出てくるんですね。ER型としての救急の歴史も深いので、いわゆる知識やエビデンス以上に経験で積み上げてきたもので伝えられるのも特徴の一つです。ドクターヘリでの病院前診療や熊本地震を経験したうえでの災害医療、多数傷病者への医療など、当院だけで完結できます。「これはあの病院で研修」とか「うちではやっていないから、別の病院で」ということがありません。救急は身体を動かさないといけないところがもともとありますが、当院では身体はもちろん、ほかの施設に行っても見劣りしない知識をつけるということも強化するべくプログラムに入れています。

熊本赤十字病院の救急科で後期研修を受けることで、どのようなスキルが身につくとお考えでしょうか。

専門医制度の中で身につけなくてはいけないスキルについてはある程度出されていますが、当院のプログラムでも十分に身につけられます。当院での3年間のプログラムでの集大成の一つはERでのリーダーをできるようになることです。リーダーをするためにはもちろん医学的なことを幅広く知らなければいけませんし、救急医としてのスキルや病棟で急変したときに対応できる知識などがあることは前提のうえで問題解決能力が問われます。完全なシフト2交代制ですので、夜間のリーダーになると上の医師はいないんです。各科の医師も基本的には自宅待機です。ですから、色々な問題が出てきたときに自分が最終決定者として判断を下さないといけません。医学的なこと以外でも社会的なことや院内で起きたちょっとした問題点も含め、様々な問題解決能力が求められている職務です。これができるようになるということは組織をある程度動かしていくことができるということです。私たちも日常の診療の中でそれを強調していますから、後期研修医も学年が上がるごとに意識をしている感じがします。

カンファレンスはどのような形で行っていますか。

毎週木曜日の午前中にカンファレンスをしています。2交代のシフト制ですから皆が一同に集まるのは実は難しく、貴重な時間になっています。もしかしたら当院の他科や他病院の救急のカンファレンスに比べると症例をもとにした医学的な内容よりも組織運営上の問題点や診療の中で問題になったこと、各科と連携して整備しないといけないところなどに割く時間の方が長いかもしれません。当院で後期研修をすると組織運営能力、問題解決能力、問題改善能力は自然と身につくでしょうね。しかし、後期研修の中で医学的な知識を身につけるのは大事なことなので、月1回カンファレンスとは別に医学、理論、知識、スキルに特化した勉強会を行っています。その時間は全ての後期研修医が集まれるようにシフトを組んでいます。それから小児科と救急科の合同カンファレンスが月に1回 外科系各科、麻酔科、放射線科との外傷症例についての合同カンファレンスが月に1回 総合内科、集中治療チームとの合同カンファレンスが月に1回あります。

先生はどのような研修医時代を過ごされたのでしょうか。

私が初期研修医になったのはいわゆるストレート研修の時代で、私の学年の2年後から必修化されたんです。私は最初は母校の医局に入りましたが、研修医時代は本当に何もできなかったというのとすごく忙しかったという印象が強いです。今のように研修医が身につけるべきものを書いた本やインターネットの情報もなかったので、上の先生方が言われることを聞き、言われるがままにやっていました。今の研修医が私が研修医だった頃を見ると「お前、自分のことを棚に上げて、何を言ってるんだ」と言うでしょうね(笑)。大学の医局の仮眠室は上の先生が寝ているので、そこには寝られません。カンファレンスルームの椅子を並べて簡易ベッドにしたり、車に戻って毛布にくるまってみたり、トイレの中でも人は寝られるんだと分かったのもその頃でした(笑)。そういう経験を通してあのときに頑張ったから今も頑張っていけるのだという根幹の部分は研修医時代に身についたように思います。

救急科を選ばれた理由をお聞かせください。

憧れやかっこいいというイメージが大きかったですね。救急科の医師への憧れというよりも、警察や消防といったものを含めての非日常や緊急事態に力を発揮している人たちのかっこよさから入っているように思います。非日常や緊急事態に活躍する職種の中で、私としては医師を選び、その中でも救急という形になっていきました。だから医師になろうと思ったうえで、科を選ぶときに救急にしたのではなく、医師であれば救急だと思っていましたから、医学部に入ったときから救急医を目指していました。

研修医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

彼らに判断させたり、判断の根拠を聞くことです。特に初期研修医に対してそのような指導をしています。卒後3年目になった途端に自分である程度の責任を持って判断しないといけなくなります。初期研修中は上の医師に判断の修正をしてもらえますが、その期間は長いようで短いんです。間違ってもよい期間はこの2年間だけですので、きちんとした判断や大きな間違いに繋がらないような判断をする練習ができるようにと心がけています。

研修医にどんなアドバイスをしたいですか。

初期研修を終えても医学的な知識やスキル、手技は学んでいけます。チーム制だったりすれば「こっちの方がいいだろう」と評価されたりして、さらに学んでいくことができるんですね。ただ、どういうふうに情報を伝えるかといったコミュニケーションの能力については3年目以降に評価を受けたり、ほかの人のやり方を参考にできる場が一気に減ってしまうんです。したがって、指導医と一緒に患者さんのところに行き、指導医がどういうふうに患者さんと話すのかを見てほしいです。指導医もそれぞれ話し方を持っているので「あの先生のこのフレーズにはこの患者さんはすごく納得していたな」「あれを説明しているとき、患者さんはよく分かっていなさそうな表情だったな」というのを見てください。3年目以降は「一人で説明してこい」ということが多いので、初期研修中はそれを聞ける特権を活かし、色々な医師の話し方やコミュニケーションの取り方を学んで、自分流のコミュニケーションの仕方を身につけてほしいと思っています。

加藤先生が熊本赤十字病院を選ばれた理由を教えてください。

私はER型の救急をしたかったので、ネットで探し何件かの病院を回りました。ここに決めたのはER型なのはもちろんですが、私よりも経験豊富な先生方の数が豊富だったからです。2009年頃はER型の病院は少なく、私が見学に行くと「部長のポストを用意します」とか「副部長で来てください」といったところが大半でしたが、私はまだ教わらないといけないことが多くあると思っていたので、当院の環境は魅力でした。見学をしても病院の全てが見えるわけではなく、細かいところまでは分かりません。当院が国際救援をしていることも入職してから知ったんです。むしろ入職後にこんなこともできる病院なんだなと実感しています。

最後に、初期研修医にメッセージをお願いします。

日本の救急医療は救急医がまだ少ないため、多くの患者さんを救急医以外の医師が診療していることが少なくありません。初期研修医の皆さんは救急医にならなくても、医師という仕事を選んだ以上、救急の患者さんには一生接していく可能性がありますので、初期研修で救急の診療の基本を学び、救急医とともに救急医療を支えてもらいたいです。もし救急医療に興味があったり、やってみたいと思っているのなら、色々な病院を見学に行き、自分に合うかどうかや特徴を見てください。そして、熊本赤十字病院を気に入ってくださったなら、救急医になる一歩を一緒に踏み出していただきたいと思っています。

お気に入り