ハッピー♡マッチ|eレジ連載小説

ハッピーマッチ

第四部 初夏 上五島

第九話 ATL(BY アオイ)2017.05.12

 つばきから話は聞いていた。
去年の、クリスマス。ふたりで「すき家」弁当を三日連続で食べたクリスマス。つばきは、少し涙ぐんで、淡々と話してくれた。

 自分の母親は、看護師で二十五才の時に、二十二才の父親と知り合い、自分を妊娠し、結婚し、出産した。父親が「つばき」と名付けた。いろいろあったらしいが、詳細は聞いていない。母が三十才、自分が五才になろうとする時、父親と離婚した。父親のことは、ほとんど覚えてない。母親は、離婚後、保健師の学校に行き、そこで知り合った、現在の父親(彼女はパパと呼んでいる)と母親が三十三才の時に、再婚した。自分が、八才だった。
 離婚後、別れた父親から、母への連絡は一切なかったそうだ。つばきも父親の消息を母に聞いたこともなかったが、祖母から父親が死んでいることをずっと後になって知らされた。
 パパがいい人だったから、何の寂しさもなく育った。パパと母の間にできた男の子ともとても仲がいい。今は何も問題ない。
 最近、母から、離婚した父親が、医学生だったことを聞いた。それは、とても衝撃だった。自分が無意識に別れた父親と同じ職業を選んだことは、驚き以外の何ものでもなかった。離婚後は、九州のどこか田舎の方で医者をしていたらしい。会ってみたいとはじめて思った。もちろん、会うことができない。
 ただ、なぜ、自分に「つばき」と名付けたか聞いてみたかった。なぜ、母と別れたかも…。


 六月の第三週目の金曜日。
 シマさん宅の勝子さんの部屋で、私たちは飲んでいる。亡くなった白井蓮先生と同期の七坂先生と、ふたりが下宿していたこの家の娘の桃花さんと。桃花さんがしんみりと言う。
「あたし達も、白井君に子供がいるなんて知らなかったねー」
 桃花さんも、焼酎『五つ星』を飲んでいた。
 私は、あえて聞かなかったが、つばきの実の父親は、白井蓮という医者であることが、周知の事実として、ここでは語られている。それを勝子さんからわたしは、聞いたが、なんとも言えない気持ちになった。つばきは、相当ショックだったに違いない。
 求め続けた人が、想像とまったく違う人だったのなら、「そうか、なるほど、そうだったのか」で済ますことができるかもしれない。しかし、自分と同じ感覚を持ち生きた人だと分かり、自分がその人と同じ道を歩いていると知った今、どれほど悲しいだろう。どれほど会いたいだろう。自分の血の中に、存在しない存在を感じることはどれほど切ないことだろう。
桃花さんも、私と同じことを思っているのだろう。
「つばきちゃん、つらいだろうねー。あんなにやさしい子だからねー。お母さんは、知ってた? つばきちゃんのこと」
「うん。蓮ちゃんが亡くなった後に、お母さんがあいさつに来たとさ。その時、はじめて知ったね。それから、蓮ちゃんの愛用のコップの裏に娘の名前の書いてあるのに気づいたとよ。七坂先生は、聞いとったんやろう?」
「蓮ちゃんは、無口やったけんねー。研修の同期だったけど、彼は関東の大学だったし、あまり自分のことは言わん人やったー。蓮ちゃんを大学病院に搬送する途中で、うわ言のように、つばきちゃんの話をしたね。それが最後やった」
「どんな話を?」
私は、会話に加わった。
  • (2016.09.16)

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  • (2016.10.14)

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  • (2016.10.21)

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  • (2016.10.28)

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  • (2016.11.04)

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  • (2016.11.11)

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  • (2016.11.18)

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  • (2016.11.25)

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  • (2016.12.02)

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  • (2016.12.09)

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  • (2016.12.16)

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  • (2017.01.06)

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  • (2017.01.13)

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  • (2017.01.20)

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    一、決められた曜日の 二、決められた時間に 三、決められたものを 四、決められた方法で 五、決められた場所へ その人は、繰り返しそうつぶやいていました…[続きを見る]

  • (2017.01.27)

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    金曜日の夜に出会った人は、白野大地という大学院生でした。あたしが住むエコ・タウンのガーベジ・ステーション(ぶっちゃげ、ゴミ置き場です)で、ラップを歌いながら…[続きを見る]

  • (2017.02.03)

    第五話 広瀬すず(BY アオイ)

    全国で五本の指に入る人気研修病院の関東敬愛病院。医学生なら誰でも憧れる。私は思い切って見学にいったものの、やらかしてしまった。…[続きを見る]

  • (2017.02.10)

    第六話 ジャスコ(BY つばき)

    ベイビー、ワン、決められたデイ、チューズデイ&フライデイ、ベイビー、ツー、決められたタイム、二〇時に、ベイビー、スリー、決めら…[続きを見る]

  • (2017.02.17)

    第七話 チャンポン(BY つばき)

    大地君は、「ごめん、ごめん」と両手で手を合わせて、二十分遅れでジャスコの一階の『無印良品』にやってきました。いつもの青の作業服姿ですが、たぶん洗い立てで…[続きを見る]

  • (2017.02.24)

    第八話 バレンタインデー(BY つばき)

    聖バレンタインデーの由来は諸説あり、女性が男性にチョコレートを贈るのは日本だけらしいのですが…、いいじゃないですか! この素晴らしいシステム。一説には、大田区の製菓会社の…[続きを見る]

  • (2017.03.03)

    第九話 桜(BY つばき)

    今年の桜はきれいです。先週、菜々さんとアオイちゃんが、ヒッキー(引きこもり)なあたしをお花見に連れていってくれました。有名な花見どころではありませんでした。…[続きを見る]

  • (2017.03.10)

    第十話 カフェモカ(BY つばき)

    大地君は、すぐにやって来ました。どうやら近くまで来ていたらしく、あたしが電話を入れると、すぐやってきました。三度目のジャスコです。フードコートです。…[続きを見る]
  • (2017.03.17)

    第一話 カッパ(BY つばき)

  • 「もうすぐ着くよー、アオイちゃん、起きて」あたしは、すっかり眠り込んでいるアオイちゃんの肩をゆらします。アオイちゃんは、大きなあくびをひとつして…[続きを見る]

  • (2017.03.24)

    第二話 よかよか(BY つばき)

  • 「関東医科大学六年生、鈴木アオイです」「佐藤つばきです」よろしくお願いします、と二人で声を合わせて挨拶をすると、七坂先生は、小麦色の肌に白い歯を…[続きを見る]

  • (2017.03.31)

    第三話 とったどー!(BY つばき)

  • えー、何で!あたしは、叫びそうになり、自分の右手で口をふさぎました。顔面血だらけのおじさん(おじいさん?)が私の目の前に立っています。額の真ん中から流…[続きを見る]

  • (2017.04.07)

    第四話 赤白セブン(BY つばき)

  • シマさんの威勢のいい声がタイミングよく響きます。「ハイ、寿司!」カウンターの一段高くなっているつけ台に色とりどりの寿司が気持ちよく整列しています。あたしたちは…[続きを見る]

  • (2017.04.14)

    第五話 和機君(BY アオイ)

  • 「百聞は一見にしかず」カリスマ・コンシェルジュの菜々さんがいつもそういうように、病院見学にはもっと沢山行くべきだった。関東敬愛病院などの大病院へは数ヵ所行った。勉強にはなったが、…[続きを見る]

  • (2017.04.21)

    第六話 ザー(BY つばき)

  • アオイちゃん、来て!」あたしは、売店の前で菊屋の『炊き込み弁当』を買おうとしていたアオイちゃんの手をひっぱります。「何よ、つばき」「とにかく、急いで!」…[続きを見る]

  • (2017.04.28)

    第七話 在宅医療(BY つばき)

  • シマさんの家は、漁市場の近くにありました。『訪問看護ステーション』とロゴの入った軽の電気自動車を広い駐車場に停めて、ベテラン看護師大道さんに続いてユリさんとあたしは車から降りました。…[続きを見る]

  • (2017.05.02)

    第八話 レンちゃん(BY アオイ)

  • 上五島に来て三週間、週末の金曜日。「アオイちゃんとつばきちゃんの第一回目の送別会と第3回目の歓迎会。シマ寿司に八時」またですかーと、言いたいところだったが、学生らしく、ありがとうございます! 楽しみです! …[続きを見る]

  • (2017.05.12)

    第九話 ATL(BY アオイ)

  • つばきから話は聞いていた。去年の、クリスマス。ふたりで「すき家」弁当を三日連続で食べたクリスマス。つばきは、少し涙ぐんで、淡々と話してくれた。 …[続きを見る]

  • (2017.05.19)

    第十話 マリア像(BY アオイ)

  • 朝八時の鯛の浦発のフェリーは、定刻どおり九時半に長崎港についた。穏やかな海だったので、ぐっすりと眠れた。若干、昨日の「五つ星」が頭の奥の方に残っている感覚もあったが、港から海沿いの公園を歩いているうちに…[続きを見る]

著者プロフィール

  • 崎長 ライト

    長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
    長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました~。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

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