ハッピー♡マッチ|eレジ連載小説

ハッピーマッチ

第四部 初夏 上五島

第五話 和機君(BY アオイ)2016.04.14

「百聞は一見にしかず」
 カリスマ・コンシェルジュの菜々さんがいつもそういうように、病院見学にはもっと沢山行くべきだった。
 関東敬愛病院などの大病院へは数ヵ所行った。勉強にはなったが、中規模病院をもっと回るべきだった。上五島病院に来てあらためてそう思った。
 離島の病院ではあるが、想像以上に大きい。全職員三百四十名(役場の次に大きな職場)、常勤医師十九名、研修医二名、看護師約百四十名。もちろん、CT、MRIや内視鏡などフル装備。
 一階は、外来と検査部。玄関のロビーには、上五島高校書道部が書いた大きな垂れ幕。感動的な言葉は、素直に気持ちにしみる。

命。そのすべてにありがとう。この命にありがとう。
命はつながっている。めぐりあえた奇跡に、ありがとう。

 二階は、外科、整形外科病棟とICU、三階は産婦人科と小児科とNICU。年間百件以上のお産がある。四階は内科系病棟。それぞれの部屋は大きくゆったりとした感じがある。六階には、見晴らしのよいレストランがある。
 二週間でだいたい病院内も把握した。
例えば、売店の売り上げの一位が菊屋の「炊き込み弁当」。
それを多くの看護師さんたちが買っている。看護師さんは、地元の人じゃない人も結構いる。長崎医療センターから派遣されているアイランドナース、Mリンクなどの民間会社の斡旋で派遣されているナース、ジャパンハートという海外医療支援のNPOから研修目的で派遣されているナースなど。二〇名程度は様々な地域から様々な形の派遣で来ている。
 その一人に、見覚えがあった。小柄な色白でほっそりした彼女。
向こうから話しかけられた。
 今日は、彼女は救急対応係のようだ。普段は外科系病棟勤務のようだが、忙しいときは応援で降りて来る。私は、内科の二週間が終わり、今日から外科だ。朝から二名の患者さん。
 包丁で誤って手を切ったおばあちゃんと山で転んで擦り傷を負った男性が来て、竹上先生と一緒に救急室で処置をさせてもらい、ひと段落ついたところで、声をかけられた。竹上先生は、外来へ行き、私は彼女と汚れたガーゼや器具の後片付けをしている。彼女がこっちをみて言う。
「もしかして、町田のハローワークでお会いしましたよね」
「あー、あの時の」
「ええ、あの時の。お母さんには大変お世話になりました」
 父の、否、母のクリニックの採用面接を受けてくれた彼女。
「海野ユリ」と、名札に書いてある。
「『アオイ』さん」
 ユリさんも私の名前を名札で確認した。
「その節は、すいませんでした。良いクリニックだったんですけど、子供の保育園の件があって」
「いえ、そんな、気にしないでください。いつからこちらに」
「今年の一月からですね」
「へー、そうだったんですか。私が関東敬愛を見学したときは、すでにこっちに来てたんですね」
「ええ、こちらの病院が『ママさんナースのサポート制度』があるんですよ」
「へー、どんな制度なんですか?」
「ワタシみたいなシングルマザーでもOKで、働いている間、子供を保育園でみてもらえるんです。夜間とか病気の時とかも」
「それ、すごいですね」
「凄いというか、正直、ワタシにとってはカミ(神)対応ですね。宿舎もあるし」
 ケラケラと声を立てて彼女は笑っている。
表情は、以前ハローワークで会った時より数段明るかった。あの時は、ほぼスッピンだったように思えるが、今はナチュラルメイク。頬と唇に明るさが増している。ユリさんは、唐突に言った。
「ホタル見たことあります?」
「ホタルですか?」
「ホタル。光るやつ」
「ない、ないですね」
「行きません? 地元のスタッフさんが、絶対、行った方がいいって。今が旬というか、今しか見れないみたい」
「へー。行ってみたいですねー」
「行きます?」
「ええ。いつですか?」
「今日にでも」
 病院から車で十分くらい走ったところに相河川(あいいごがわ)がある。五月下旬からホタル祭りがあり、今週末で終わるという。ホタルのピークは六月上旬らしいが…。
「まだ、大丈夫だよ」
 竹上先生が外来から戻って来て言った。
  • (2016.09.16)

    第一話 大事な選択のはじまり (BY つばき)

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  • (2016.09.23)

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  • (2016.09.30)

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  • (2016.10.07)

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  • (2016.10.14)

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  • (2016.10.21)

    第六話 ハニーちゃん☆Happy スタンプ (BY アオイ)

  • 〝鈴木アオイ〟と書いたエントリーシートの最後の一枚を出し終えたときにすでに心は決まっていた。十病院目の北海道の小さな病院の話を聞き終えたあと、つばきを探した。…[続きを見る]
  • (2016.10.28)

    第一話 「神奈川県」町田市 (BY アオイ)

  • 十月のEレジが終わった後、真剣に将来を考えるようになった。たぶん。 「自分が何をやりたいか、どうなりたいか考えること」それが…[続きを見る]

  • (2016.11.04)

    第二話 千葉県習志野市実籾駅(BY つばき)

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  • (2016.11.11)

    第三話 パパと父さん(BY つばき)

  • 習志野の実家に久しぶり帰った夜、あたし達は、かなり酔っていました。パパはオペラ椿姫のCDをかけて、かなりご機嫌でした。「実は、パパと母さんが出会ったのは…[続きを見る]

  • (2016.11.18)

    第四話 町田市ハローワーク(BY アオイ)

  • 塾通いしていた頃を思い出しながら、町田街道を歩き、ハローワークに着いた。医学生とハローワークは無縁だけど、私は興味津々。ドアを開けた。入り口で、案内の男の人に…[続きを見る]

  • (2016.11.25)

    第五話 関東医科大学 実習室(BY アオイ)

  • 桜田俊介。彼と付き合い始めたのは、医学部三年生の秋頃だったから、もうまる二年になる。出会いは、病理学の試験の前だった。土曜日の殺風景な実習室には…[続きを見る]

  • (2016.12.02)

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  • (2016.12.09)

    第七話 クリスマス・イブ(BY つばき)

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  • (2016.12.16)

    第八話 クリスマス(BY つばき)

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  • (2017.01.06)

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  • (2017.01.13)

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    二月のある金曜日の朝、八時五分前。私は、かなり焦っていた。「別館三階の教育センターってどこですか?」ここで、この人に聞くのは二度目だ。関東敬愛病院の正面玄関の総合案内。…[続きを見る]

  • (2017.01.20)

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    一、決められた曜日の 二、決められた時間に 三、決められたものを 四、決められた方法で 五、決められた場所へ その人は、繰り返しそうつぶやいていました…[続きを見る]

  • (2017.01.27)

    第四話 セブン(BY つばき)

    金曜日の夜に出会った人は、白野大地という大学院生でした。あたしが住むエコ・タウンのガーベジ・ステーション(ぶっちゃげ、ゴミ置き場です)で、ラップを歌いながら…[続きを見る]

  • (2017.02.03)

    第五話 広瀬すず(BY アオイ)

    全国で五本の指に入る人気研修病院の関東敬愛病院。医学生なら誰でも憧れる。私は思い切って見学にいったものの、やらかしてしまった。…[続きを見る]

  • (2017.02.10)

    第六話 ジャスコ(BY つばき)

    ベイビー、ワン、決められたデイ、チューズデイ&フライデイ、ベイビー、ツー、決められたタイム、二〇時に、ベイビー、スリー、決めら…[続きを見る]

  • (2017.02.17)

    第七話 チャンポン(BY つばき)

    大地君は、「ごめん、ごめん」と両手で手を合わせて、二十分遅れでジャスコの一階の『無印良品』にやってきました。いつもの青の作業服姿ですが、たぶん洗い立てで…[続きを見る]

  • (2017.02.24)

    第八話 バレンタインデー(BY つばき)

    聖バレンタインデーの由来は諸説あり、女性が男性にチョコレートを贈るのは日本だけらしいのですが…、いいじゃないですか! この素晴らしいシステム。一説には、大田区の製菓会社の…[続きを見る]

  • (2017.03.03)

    第九話 桜(BY つばき)

    今年の桜はきれいです。先週、菜々さんとアオイちゃんが、ヒッキー(引きこもり)なあたしをお花見に連れていってくれました。有名な花見どころではありませんでした。…[続きを見る]

  • (2017.03.10)

    第十話 カフェモカ(BY つばき)

    大地君は、すぐにやって来ました。どうやら近くまで来ていたらしく、あたしが電話を入れると、すぐやってきました。三度目のジャスコです。フードコートです。…[続きを見る]
  • (2017.03.17)

    第一話 カッパ(BY つばき)

  • 「もうすぐ着くよー、アオイちゃん、起きて」あたしは、すっかり眠り込んでいるアオイちゃんの肩をゆらします。アオイちゃんは、大きなあくびをひとつして…[続きを見る]

  • (2017.03.24)

    第二話 よかよか(BY つばき)

  • 「関東医科大学六年生、鈴木アオイです」「佐藤つばきです」よろしくお願いします、と二人で声を合わせて挨拶をすると、七坂先生は、小麦色の肌に白い歯を…[続きを見る]

  • (2017.03.31)

    第三話 とったどー!(BY つばき)

  • えー、何で!あたしは、叫びそうになり、自分の右手で口をふさぎました。顔面血だらけのおじさん(おじいさん?)が私の目の前に立っています。額の真ん中から流…[続きを見る]

  • (2017.04.07)

    第四話 赤白セブン(BY つばき)

  • シマさんの威勢のいい声がタイミングよく響きます。「ハイ、寿司!」カウンターの一段高くなっているつけ台に色とりどりの寿司が気持ちよく整列しています。あたしたちは…[続きを見る]

  • (2017.04.14)

    第五話 和機君(BY アオイ)

  • 「百聞は一見にしかず」カリスマ・コンシェルジュの菜々さんがいつもそういうように、病院見学にはもっと沢山行くべきだった。関東敬愛病院などの大病院へは数ヵ所行った。勉強にはなったが、…[続きを見る]

  • (2017.04.21)

    第六話 ザー(BY つばき)

  • アオイちゃん、来て!」あたしは、売店の前で菊屋の『炊き込み弁当』を買おうとしていたアオイちゃんの手をひっぱります。「何よ、つばき」「とにかく、急いで!」…[続きを見る]

著者プロフィール

  • 崎長 ライト

    長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
    長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました~。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

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