ハッピー♡マッチ|eレジ連載小説

ハッピーマッチ

第三部 出会いと別れ 春

第十話 カフェモカ(BY つばき)2016.03.10

 大地君は、すぐにやって来ました。
どうやら近くまで来ていたらしく、あたしが電話を入れると、すぐやってきました。
 三度目のジャスコです。フードコートです。
三度目の長崎ちゃんぽんではなく、今回はふたりともコーヒーショップで買ってきたカフェモカを持って、フードコートの真ん中あたりに席をみつけて座りました。ゴールデンウイークの最後の日ということでかなり混雑していました。
 さらに、前回までと大きく違ったのは、大地君は短く髪を切りスーツ姿です。びっくりです。ザ・社会人という感じです。ところで、彼は、いったい何をしに来たのでしょうか。
「ああ、髪切ったんだね」
 あたしの髪型にも気づいてくれてます。
うれしいのですが、ちょっと複雑…。とりあえず、うなずきました。彼の青のストライプのネクタイはとても似合っています。今日はあたしも短めの髪に似合う春物の白のブラウスとジーンズを組み合わせています。ちょっとおしゃれにしていて良かったと思います。並んで座っていても違和感はないと思います。でも、さっきからあたし、何も話してない…。何か話さないと…。
「大地君も…」
 これで精いっぱいでした。
「短い髪が似合ってるよ」とか、「彼女ができたのかなあ?」とか、明るくさっぱり、未練なんかありません! みたいな感じを演出したかったのですが…、顔を見ると全然ダメです。また、数ヵ月前の感情が湧き出てくるようで…。
「この前のシフォンケーキ美味しかった」
 あー、だからー、そんなこと言うと…。
「めっちゃ、美味しかった」
 ああー、ダメだー。全然吹っ切れてない、あたし。
「ホントに、ありがとう。電話番号の入ったカードも入れててくれて」
 えっ、そうだったけー。忘れてたー。だから番号知ってたのね。
「連絡しなくて、ごめん、いろいろ忙しくて」
 いや、そんなに、頭下げると、あたしのカフェモカのクリームが頭につくよー。それに、もう終わったことじゃないですか。何も謝る必要は…。もう、帰ろう。ジャニオタの性格は基本、しつこいのだから、これ以上関わるとあたしは、ストーカーになるかもしれないよ…。椅子を引いて、立ち上がろうと前かがみになった時、彼の顔が寄ってきました。今日はじめて目が合いました。
「就職が決まった」
 何? 就職? 今頃決まるの?
「院生の場合は、学部生とちょっと違うんだけど。さらに、オレの場合、専門分野が特殊だから、なかなか就職先がないんだけど…」
 ああ、そっかー。
 それをわざわざ報告に来てくれたわけね。いまさら、そんなことしなくてもいいのに。でも、素直にうれしい。
カップに口をつけます。少ししか飲めませんでした。カップから口を離し、あたしは、やっと、まともに口を開こうとしました。昔の恋にくよくよしていたらダメだ。前を向こう。お祝いの言葉を言って帰ろう。
「おめでとう」
「ありがとう」
 席を立とうとしましたが、できません。あたしの手はテーブルの上のカフェモカのカップを握ったままです。あたしの耳は彼の声に釘付けです。
 彼は、就職先が第一志望の大手のメーカーに決まったそうです。環境保全のプロジェクトにも出資している全国規模の大きな会社のようです。博士論文の進み具合も良く、教授が推薦してくれたそうです。見通しがついた、すこし余裕ができた、と嬉しそうです。
「よかったね」
「うん。おかげ様で、これでやっと…」
 わたしは迷っていました。
テーブルの上をナプキンで拭き、両手でカフェモカを握っていました。このまま、じゃあと言って立ち上がってサヨナラを言うか、じゃあお祝いの食事でもと言うべきか、揺れていました。
でも、食事に誘う勇気なんてどこにもないことに気づいてました。
 帰るか…。
その時、暖かいものを感じました。からだ全体をふわり包み込むような。えっ、なんだ、なんだろう。注意深くその感覚を追ってゆくと、テーブルの上のカフェモカを握った左手でした。あたしの左手は、大地君の右手でおおわれて、優しく固定されていました。ふたりの視線はカフェモカの揺れるクリームの上です。
なんだ、なんだ、何が始まるの?
「つばきちゃん」
 今度は、右手がぐっと握られました。かなり強い力です。両手に圧がかかってきました。
エ~、ちょっと~、何、な~に。
  • (2016.09.16)

    第一話 大事な選択のはじまり (BY つばき)

  • あたし、佐藤つばきは、長い、長い列に並んでいます。2016年の秋の良く晴れた日曜日のことです。二十四才女子が、もうすでに二時間も並んでるのには、それなりの理由があります。それは…[続きを見る]

  • (2016.09.23)

    第二話 ラブゲーム…ですか? (BY アオイ)

  • 鈴木アオイ 関東医科大 五年生 私は、ネームタグに油性マジックで大きく書いて、ビニールのフォルダーに入れて、首にかけた。ここは、東京ドームに併設されたプリズムホール。リクルート…[続きを見る]

  • (2016.09.30)

    第三話 倖田組員とエイター (BY アオイ)

  • 東京での医学生対象の病院就職説明会は、爆笑の連続で大盛り上がりだった。ポイントポイントで、カリスマ・コンシェルジュ、渡辺菜々が倖田來未の曲の歌詞などを入れこみ、わかりやすく…[続きを見る]

  • (2016.10.07)

    第四話 すばらすぃ~とですぅ~ (BY つばき)

  • 倖田來未のファンクラブ倖田組の組員、渡辺菜々さんは、あたしとアオイちゃんに声をかけてきました。東京ドームの近くの就職説明会=マッチング説明会&初期研修病院説明会のEレジ会場で。…[続きを見る]

  • (2016.10.14)

    第五話 〝TSUBAKI〟 (BY つばき)

  • 上五島病院のブースは、他の病院とまるで違います。ナニコレっという感じです。壁には、きれいな写真がずらりと飾ってあります。海、島、山、教会、サンゴ礁、お祭り、人の顔…[続きを見る]

  • (2016.10.21)

    第六話 ハニーちゃん☆Happy スタンプ (BY アオイ)

  • 〝鈴木アオイ〟と書いたエントリーシートの最後の一枚を出し終えたときにすでに心は決まっていた。十病院目の北海道の小さな病院の話を聞き終えたあと、つばきを探した。…[続きを見る]
  • (2016.10.28)

    第一話 「神奈川県」町田市 (BY アオイ)

  • 十月のEレジが終わった後、真剣に将来を考えるようになった。たぶん。 「自分が何をやりたいか、どうなりたいか考えること」それが…[続きを見る]

  • (2016.11.04)

    第二話 千葉県習志野市実籾駅(BY つばき)

  • 土曜日の夕方、パパが駅で待っててくれました。「イェーイ!」「イェーイ!」いつものように、右手と右手でハイタッチをしました。いや、ハイタッチではないかー。はじめてパパと会った時の…[続きを見る]

  • (2016.11.11)

    第三話 パパと父さん(BY つばき)

  • 習志野の実家に久しぶり帰った夜、あたし達は、かなり酔っていました。パパはオペラ椿姫のCDをかけて、かなりご機嫌でした。「実は、パパと母さんが出会ったのは…[続きを見る]

  • (2016.11.18)

    第四話 町田市ハローワーク(BY アオイ)

  • 塾通いしていた頃を思い出しながら、町田街道を歩き、ハローワークに着いた。医学生とハローワークは無縁だけど、私は興味津々。ドアを開けた。入り口で、案内の男の人に…[続きを見る]

  • (2016.11.25)

    第五話 関東医科大学 実習室(BY アオイ)

  • 桜田俊介。彼と付き合い始めたのは、医学部三年生の秋頃だったから、もうまる二年になる。出会いは、病理学の試験の前だった。土曜日の殺風景な実習室には…[続きを見る]

  • (2016.12.02)

    第六話 いつまで?(BY アオイ)

  • 初恋が二十一才の秋。俊介と付き合うようになったのがその冬。「ウッソーっ、遅すぎー、キモー」渋谷を歩くJKから笑われるかな?でも、恥ずかしくもなんともない。だって…[続きを見る]

  • (2016.12.09)

    第七話 クリスマス・イブ(BY つばき)

  • 2016年のクリスマス・イブは、3連休の真ん中。「まいったなあー。あたし、実家に3日間かー。関ジャニのコンサートもないしなあー。アオイちゃんは、いいよなー、俊介君と…[続きを見る]

  • (2016.12.16)

    第八話 クリスマス(BY つばき)

  • あたし達は、無敵です。パジャマの上に、しまむらのモコモコのフリースを羽織り、すき家で「とろ~り3種のチーズ牛丼」と「高菜明太マヨ牛丼」を買った後、意気揚々と…[続きを見る]
  • (2017.01.06)

    第一話 距離?(BY アオイ)

  • 二〇一七年、いよいよ今年は医学部最終学年。充実した年になるように頑張ろう!年明け初日の実習に備え眠ろうとした時、俊介からのメールが来た。ラインではなくメールだっ…[続きを見る]

  • (2017.01.13)

    第二話 私のキャラって?(BY アオイ)

    二月のある金曜日の朝、八時五分前。私は、かなり焦っていた。「別館三階の教育センターってどこですか?」ここで、この人に聞くのは二度目だ。関東敬愛病院の正面玄関の総合案内。…[続きを見る]

  • (2017.01.20)

    第三話 作業員(BY つばき)

    一、決められた曜日の 二、決められた時間に 三、決められたものを 四、決められた方法で 五、決められた場所へ その人は、繰り返しそうつぶやいていました…[続きを見る]

  • (2017.01.27)

    第四話 セブン(BY つばき)

    金曜日の夜に出会った人は、白野大地という大学院生でした。あたしが住むエコ・タウンのガーベジ・ステーション(ぶっちゃげ、ゴミ置き場です)で、ラップを歌いながら…[続きを見る]

  • (2017.02.03)

    第五話 広瀬すず(BY アオイ)

    全国で五本の指に入る人気研修病院の関東敬愛病院。医学生なら誰でも憧れる。私は思い切って見学にいったものの、やらかしてしまった。…[続きを見る]

  • (2017.02.10)

    第六話 ジャスコ(BY つばき)

    ベイビー、ワン、決められたデイ、チューズデイ&フライデイ、ベイビー、ツー、決められたタイム、二〇時に、ベイビー、スリー、決めら…[続きを見る]

  • (2017.02.17)

    第七話 チャンポン(BY つばき)

    大地君は、「ごめん、ごめん」と両手で手を合わせて、二十分遅れでジャスコの一階の『無印良品』にやってきました。いつもの青の作業服姿ですが、たぶん洗い立てで…[続きを見る]

  • (2017.02.24)

    第八話 バレンタインデー(BY つばき)

    聖バレンタインデーの由来は諸説あり、女性が男性にチョコレートを贈るのは日本だけらしいのですが…、いいじゃないですか! この素晴らしいシステム。一説には、大田区の製菓会社の…[続きを見る]

  • (2017.03.03)

    第九話 桜(BY つばき)

    今年の桜はきれいです。先週、菜々さんとアオイちゃんが、ヒッキー(引きこもり)なあたしをお花見に連れていってくれました。有名な花見どころではありませんでした。…[続きを見る]

  • (2017.03.10)

    第十話 カフェモカ(BY つばき)

    大地君は、すぐにやって来ました。どうやら近くまで来ていたらしく、あたしが電話を入れると、すぐやってきました。三度目のジャスコです。フードコートです。…[続きを見る]
  • (2017.03.17)

    第一話 カッパ(BY つばき)

  • 「もうすぐ着くよー、アオイちゃん、起きて」あたしは、すっかり眠り込んでいるアオイちゃんの肩をゆらします。アオイちゃんは、大きなあくびをひとつして…[続きを見る]

  • (2017.03.24)

    第二話 よかよか(BY つばき)

  • 「関東医科大学六年生、鈴木アオイです」「佐藤つばきです」よろしくお願いします、と二人で声を合わせて挨拶をすると、七坂先生は、小麦色の肌に白い歯を…[続きを見る]

  • (2017.03.31)

    第三話 とったどー!(BY つばき)

  • えー、何で!あたしは、叫びそうになり、自分の右手で口をふさぎました。顔面血だらけのおじさん(おじいさん?)が私の目の前に立っています。額の真ん中から流…[続きを見る]

  • (2017.04.07)

    第四話 赤白セブン(BY つばき)

  • シマさんの威勢のいい声がタイミングよく響きます。「ハイ、寿司!」カウンターの一段高くなっているつけ台に色とりどりの寿司が気持ちよく整列しています。あたしたちは…[続きを見る]

  • (2017.04.14)

    第五話 和機君(BY アオイ)

  • 「百聞は一見にしかず」カリスマ・コンシェルジュの菜々さんがいつもそういうように、病院見学にはもっと沢山行くべきだった。関東敬愛病院などの大病院へは数ヵ所行った。勉強にはなったが、…[続きを見る]

  • (2017.04.21)

    第六話 ザー(BY つばき)

  • アオイちゃん、来て!」あたしは、売店の前で菊屋の『炊き込み弁当』を買おうとしていたアオイちゃんの手をひっぱります。「何よ、つばき」「とにかく、急いで!」…[続きを見る]

  • (2017.04.28)

    第七話 在宅医療(BY つばき)

  • シマさんの家は、漁市場の近くにありました。『訪問看護ステーション』とロゴの入った軽の電気自動車を広い駐車場に停めて、ベテラン看護師大道さんに続いてユリさんとあたしは車から降りました。…[続きを見る]

  • (2017.05.02)

    第八話 レンちゃん(BY アオイ)

  • 上五島に来て三週間、週末の金曜日。「アオイちゃんとつばきちゃんの第一回目の送別会と第3回目の歓迎会。シマ寿司に八時」またですかーと、言いたいところだったが、学生らしく、ありがとうございます! 楽しみです! …[続きを見る]

  • (2017.05.12)

    第九話 ATL(BY アオイ)

  • つばきから話は聞いていた。去年の、クリスマス。ふたりで「すき家」弁当を三日連続で食べたクリスマス。つばきは、少し涙ぐんで、淡々と話してくれた。 …[続きを見る]

  • (2017.05.19)

    第十話 マリア像(BY アオイ)

  • 朝八時の鯛の浦発のフェリーは、定刻どおり九時半に長崎港についた。穏やかな海だったので、ぐっすりと眠れた。若干、昨日の「五つ星」が頭の奥の方に残っている感覚もあったが、港から海沿いの公園を歩いているうちに…[続きを見る]

  • (2017.05.26)

    第十一話 よーい、スタート!(BY アオイ)

  • 私は、マリア像の前で告白している。俊介は、医学部を卒業すると大学病院に残ると決めた。それを彼は言いに来たのだった。自分は、大学に残るから、彼女である私も同様の道を…と。それが、当然と。マリア像の前では、嘘は言うまい。…[続きを見る]

  • (2017.06.02)

    第十二話 1997(BY つばき)

  • アオイちゃんが、朝一番のフェリーで長崎に発った頃、あたしは、上五島病院の地下室に向かっていました。「暑いからね、気をつけてよ。ここには、水もないし、クーラーのついとらん。ここで熱中症になったら…[続きを見る]

  • (2017.06.09)

    第十三話 つばき体験工房(BY つばき)

  • 『謙虚、見栄を張らない気取らない魅力』つばきの花の言葉です。ぜんぜん私は、そんなふうになってません。なぜ、父、白井蓮先生は、このような名前を付けたのでしょうか。「つばき」には、実は、たくさん種類があるのですが、…[続きを見る]

  • (2017.06.16)

    第十四話(最終話) 頭ヶ島天主堂(BY つばき)

  • あたしは、ひとりで、電気自動車を運転していました。運転は、快適でした。そんなに車もなく、天気は良く景色は最高でしたから。でも、どうして、七坂先生は、あたしをひとりで行かせたかったのでしょうか。若干、不安を抱…[続きを見る]

著者プロフィール

  • 崎長 ライト

    長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
    長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました~。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

お気に入り