ハッピー♡マッチ|eレジ連載小説

ハッピーマッチ

第三部 出会いと別れ 春

第八話 バレタインデー(BY つばき)2017.02.24

 聖バレンタインデーの由来は諸説あり、女性が男性にチョコレートを贈るのは日本だけらしいのですが…、いいじゃないですか! この素晴らしいシステム。
 一説には、大田区の製菓会社の原邦生様という方が考案したそうですが(ウィキペディア)、あたしは、原様にノーベル賞をあげていいと思います。ノーベル賞がダメなら、つばき大賞でもあげたい。
「そんなの欲しくないと思うよ、つばき」
「ですよね」
「つばき大賞やる前に、大地君にチョコ渡した方がいいよ」
 一月の末に大地君はエコ・タウンから引き揚げ、大学の研究所に戻りました。今は、代わりの外国人の院生が、ざっくりした分別作業をやっています。
「チョコかー。アオイちゃんはどうするの? 俊介君に」
「あたし…。あたしのことはどうでもいいのよ」
 しまった、うかつに聞いてしまいました。ふたりは、休眠状態が続いているようです。
 生協で、そんな会話をしながら、ふたりでしょんぼりとしていると、菜々さんがやってきました。今日は、六月のEレジの打ち合わせです。まだ、二月ですけど、カリスマは、先の先を読んで営業をしているようです。アオイちゃんが国対委員なので、菜々さんと情報交換します。
 ひととおり、Eレジ関連の話が終わると、再び、あたしの話になりました。自称、つばきの恋の応援団の団員たちは、本人そっちのけで、だんだん盛り上がってきています。
「つばき、ここは、大一番、天王山、剣が峰…、とにかく勝負よ」
「そうかなー」
「あかん、元気だしな、勝負や。好きなんやろ? つばきちゃん」
 生協のプラスチックの茶碗の中には茶柱が立っていました。
小さくうなずきました。
「やったら、コクちゃうしかないやん」
「えー、告白…、ですか」
「そうだよ、つばき、告っちゃえ」
 なんか、アオイちゃんが急に元気になってきました。
「あたしなんか、無理だよ…」
「無理なことないで。好きなら行くしかないやん」
「でもやっぱ、つばきは無理かなあ。地味で大人しい、真面目で優しい、ジャニオタで、妄想癖の佐藤つばきだからねー」
いや、アオイちゃんそこまで言わなくても…。
「そやなあ。でもな、彼も二十四才、就職前。つばきちゃんも同じ、二十四才、就職前。例え今後友達関係みたいなのが薄―く続いてな、いきなり社会人になって、付き合ったりする?」
「可能性は低いですね。研修医の時忙しいし、向こうも新人社員だから忙しいし、付き合うのは厳しいかも」
「そやろー。だからさ、ええ年なんやから、もし、ここで付き合うことになれば、社会人になってから、ハッピーになるかもしれへんでー」
 あたしは、すこし顔を上げました。菜々さんがいう次の言葉で、こころが動きました。
「つばきちゃんは、まだ、どこで研修するかも決めてへん。もし、大地君と付き合うようになったら、研修先も変わるわなー。ハッピーマッチングにしたいなら、勇気やな」
 ハッピーマッチングとは、どういうことなのでしょうか?
医学生と研修病院、あたしと大地君のこと…。
まあ、どっちでもいいですが、菜々さんのいうことは、正しいような気がします。ここで躊躇したら何も変わらないことは事実です。このままヤス君との妄想の世界で一生過ごすことになるかもしれません。それは、それで、楽しいのですが、やっぱり悲しい…。
アオイちゃんも応援してくれてます。
「たいした恋愛経験のない私がいうのも何なんだけど、好きになる人って、そうそう出てこないよ。ただでさえ出会いの少ない医学部女子だし。菜々さんのいうように思い切ってもいいかも」


 それから一週間、あたしの頭の中は、チョコレートのことで一杯でした。手作りにすることだけは決めました。
生チョコ、トリュフ、ガナッシュカップ、ホワイトチョコ、ワイン入りチョコ、ハート型チョコ、バナナチョコ、ガトーショコラ…。
「基本、溶かして、固めるだけじゃん、超ー、簡単」
「今年は、たこ焼きチョコええんちゃう、来てるわー」
 信用しません。
応援団を全部信じると、手痛い目に合うのは経験済みです。
あたしは、悩んだ末、抹茶のシフォンケーキにしました。
食いしん坊のパパは、ケーキ作りもやります。特に、シフォンケーキが得意で、子供のころから手伝っていました。八才の時に、はじめて、ふっくらと焼き上がるシフォンケーキを食べたときの感動は忘れません。幸せそのものでした。だから、シフォンなら、多少の自信があります。チョコレートじゃなくて抹茶にしたのは、大地君がフードコートで、抹茶のアイスクリームを頼もうとしたからです。あの時は、結局、食べれませんでしたが。たぶん、抹茶好きです。
  • (2016.09.16)

    第一話 大事な選択のはじまり (BY つばき)

  • あたし、佐藤つばきは、長い、長い列に並んでいます。2016年の秋の良く晴れた日曜日のことです。二十四才女子が、もうすでに二時間も並んでるのには、それなりの理由があります。それは…[続きを見る]

  • (2016.09.23)

    第二話 ラブゲーム…ですか? (BY アオイ)

  • 鈴木アオイ 関東医科大 五年生 私は、ネームタグに油性マジックで大きく書いて、ビニールのフォルダーに入れて、首にかけた。ここは、東京ドームに併設されたプリズムホール。リクルート…[続きを見る]

  • (2016.09.30)

    第三話 倖田組員とエイター (BY アオイ)

  • 東京での医学生対象の病院就職説明会は、爆笑の連続で大盛り上がりだった。ポイントポイントで、カリスマ・コンシェルジュ、渡辺菜々が倖田來未の曲の歌詞などを入れこみ、わかりやすく…[続きを見る]

  • (2016.10.07)

    第四話 すばらすぃ~とですぅ~ (BY つばき)

  • 倖田來未のファンクラブ倖田組の組員、渡辺菜々さんは、あたしとアオイちゃんに声をかけてきました。東京ドームの近くの就職説明会=マッチング説明会&初期研修病院説明会のEレジ会場で。…[続きを見る]

  • (2016.10.14)

    第五話 〝TSUBAKI〟 (BY つばき)

  • 上五島病院のブースは、他の病院とまるで違います。ナニコレっという感じです。壁には、きれいな写真がずらりと飾ってあります。海、島、山、教会、サンゴ礁、お祭り、人の顔…[続きを見る]

  • (2016.10.21)

    第六話 ハニーちゃん☆Happy スタンプ (BY アオイ)

  • 〝鈴木アオイ〟と書いたエントリーシートの最後の一枚を出し終えたときにすでに心は決まっていた。十病院目の北海道の小さな病院の話を聞き終えたあと、つばきを探した。…[続きを見る]
  • (2016.10.28)

    第一話 「神奈川県」町田市 (BY アオイ)

  • 十月のEレジが終わった後、真剣に将来を考えるようになった。たぶん。 「自分が何をやりたいか、どうなりたいか考えること」それが…[続きを見る]

  • (2016.11.04)

    第二話 千葉県習志野市実籾駅(BY つばき)

  • 土曜日の夕方、パパが駅で待っててくれました。「イェーイ!」「イェーイ!」いつものように、右手と右手でハイタッチをしました。いや、ハイタッチではないかー。はじめてパパと会った時の…[続きを見る]

  • (2016.11.11)

    第三話 パパと父さん(BY つばき)

  • 習志野の実家に久しぶり帰った夜、あたし達は、かなり酔っていました。パパはオペラ椿姫のCDをかけて、かなりご機嫌でした。「実は、パパと母さんが出会ったのは…[続きを見る]

  • (2016.11.18)

    第四話 町田市ハローワーク(BY アオイ)

  • 塾通いしていた頃を思い出しながら、町田街道を歩き、ハローワークに着いた。医学生とハローワークは無縁だけど、私は興味津々。ドアを開けた。入り口で、案内の男の人に…[続きを見る]

  • (2016.11.25)

    第五話 関東医科大学 実習室(BY アオイ)

  • 桜田俊介。彼と付き合い始めたのは、医学部三年生の秋頃だったから、もうまる二年になる。出会いは、病理学の試験の前だった。土曜日の殺風景な実習室には…[続きを見る]

  • (2016.12.02)

    第六話 いつまで?(BY アオイ)

  • 初恋が二十一才の秋。俊介と付き合うようになったのがその冬。「ウッソーっ、遅すぎー、キモー」渋谷を歩くJKから笑われるかな?でも、恥ずかしくもなんともない。だって…[続きを見る]

  • (2016.12.09)

    第七話 クリスマス・イブ(BY つばき)

  • 2016年のクリスマス・イブは、3連休の真ん中。「まいったなあー。あたし、実家に3日間かー。関ジャニのコンサートもないしなあー。アオイちゃんは、いいよなー、俊介君と…[続きを見る]

  • (2016.12.16)

    第八話 クリスマス(BY つばき)

  • あたし達は、無敵です。パジャマの上に、しまむらのモコモコのフリースを羽織り、すき家で「とろ~り3種のチーズ牛丼」と「高菜明太マヨ牛丼」を買った後、意気揚々と…[続きを見る]
  • (2017.01.06)

    第一話 距離?(BY アオイ)

  • 二〇一七年、いよいよ今年は医学部最終学年。充実した年になるように頑張ろう!年明け初日の実習に備え眠ろうとした時、俊介からのメールが来た。ラインではなくメールだっ…[続きを見る]

  • (2017.01.13)

    第二話 私のキャラって?(BY アオイ)

    二月のある金曜日の朝、八時五分前。私は、かなり焦っていた。「別館三階の教育センターってどこですか?」ここで、この人に聞くのは二度目だ。関東敬愛病院の正面玄関の総合案内。…[続きを見る]

  • (2017.01.20)

    第三話 作業員(BY つばき)

    一、決められた曜日の 二、決められた時間に 三、決められたものを 四、決められた方法で 五、決められた場所へ その人は、繰り返しそうつぶやいていました…[続きを見る]

  • (2017.01.27)

    第四話 セブン(BY つばき)

    金曜日の夜に出会った人は、白野大地という大学院生でした。あたしが住むエコ・タウンのガーベジ・ステーション(ぶっちゃげ、ゴミ置き場です)で、ラップを歌いながら…[続きを見る]

  • (2017.02.03)

    第五話 広瀬すず(BY アオイ)

    全国で五本の指に入る人気研修病院の関東敬愛病院。医学生なら誰でも憧れる。私は思い切って見学にいったものの、やらかしてしまった。…[続きを見る]

  • (2017.02.10)

    第六話 ジャスコ(BY つばき)

    ベイビー、ワン、決められたデイ、チューズデイ&フライデイ、ベイビー、ツー、決められたタイム、二〇時に、ベイビー、スリー、決めら…[続きを見る]

  • (2017.02.17)

    第七話 チャンポン(BY つばき)

    大地君は、「ごめん、ごめん」と両手で手を合わせて、二十分遅れでジャスコの一階の『無印良品』にやってきました。いつもの青の作業服姿ですが、たぶん洗い立てで…[続きを見る]

  • (2017.02.24)

    第八話 バレンタインデー(BY つばき)

    聖バレンタインデーの由来は諸説あり、女性が男性にチョコレートを贈るのは日本だけらしいのですが…、いいじゃないですか! この素晴らしいシステム。一説には、大田区の製菓会社の…[続きを見る]

  • (2017.03.03)

    第九話 桜(BY つばき)

    今年の桜はきれいです。先週、菜々さんとアオイちゃんが、ヒッキー(引きこもり)なあたしをお花見に連れていってくれました。有名な花見どころではありませんでした。…[続きを見る]

  • (2017.03.10)

    第十話 カフェモカ(BY つばき)

    大地君は、すぐにやって来ました。どうやら近くまで来ていたらしく、あたしが電話を入れると、すぐやってきました。三度目のジャスコです。フードコートです。…[続きを見る]
  • (2017.03.17)

    第一話 カッパ(BY つばき)

  • 「もうすぐ着くよー、アオイちゃん、起きて」あたしは、すっかり眠り込んでいるアオイちゃんの肩をゆらします。アオイちゃんは、大きなあくびをひとつして…[続きを見る]

  • (2017.03.24)

    第二話 よかよか(BY つばき)

  • 「関東医科大学六年生、鈴木アオイです」「佐藤つばきです」よろしくお願いします、と二人で声を合わせて挨拶をすると、七坂先生は、小麦色の肌に白い歯を…[続きを見る]

  • (2017.03.31)

    第三話 とったどー!(BY つばき)

  • えー、何で!あたしは、叫びそうになり、自分の右手で口をふさぎました。顔面血だらけのおじさん(おじいさん?)が私の目の前に立っています。額の真ん中から流…[続きを見る]

  • (2017.04.07)

    第四話 赤白セブン(BY つばき)

  • シマさんの威勢のいい声がタイミングよく響きます。「ハイ、寿司!」カウンターの一段高くなっているつけ台に色とりどりの寿司が気持ちよく整列しています。あたしたちは…[続きを見る]

  • (2017.04.14)

    第五話 和機君(BY アオイ)

  • 「百聞は一見にしかず」カリスマ・コンシェルジュの菜々さんがいつもそういうように、病院見学にはもっと沢山行くべきだった。関東敬愛病院などの大病院へは数ヵ所行った。勉強にはなったが、…[続きを見る]

  • (2017.04.21)

    第六話 ザー(BY つばき)

  • アオイちゃん、来て!」あたしは、売店の前で菊屋の『炊き込み弁当』を買おうとしていたアオイちゃんの手をひっぱります。「何よ、つばき」「とにかく、急いで!」…[続きを見る]

著者プロフィール

  • 崎長 ライト

    長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
    長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました~。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

お気に入り