全国で活躍する女性医師

2019-12-31

日本赤十字社医療センター

全国の赤十字病院の中から、東京都の日本赤十字社医療センターにお伺いしました。研修のプログラム、1日のスケジュールなど、現場の声が聞けるインタビューです。

日本赤十字社医療センター
 物部寛子先生 耳鼻咽喉科 部長
日本赤十字社医療センター 耳鼻咽喉科部長 物部寛子

物部寛子 先生 プロフィール

1996年
群馬大学卒業
1996年
東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科 研修医
1997年
JR東京総合病院にて研修
1998年
武蔵野赤十字病院 耳鼻咽喉科
1999年
東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科
2000年
日本赤十字社医療センター 耳鼻咽喉科
2001年
東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科助手
2003年
竹田綜合病院 耳鼻咽喉科医長
2006年
日立製作所日立総合病院 耳鼻咽喉科主任医長
2010年
NTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科
2012年
日本赤十字社医療センター 耳鼻咽喉科
2013年
同センター 耳鼻咽喉科部長

現在に至る

加盟学会・専門分野など

日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医・補聴器相談医・指導医
日本気管食道科学会気管食道科専門医
日本めまい平衡医学会めまい相談医
日本耳鼻科学会代議員
身体障害者福祉法指定医(聴覚障害/平衡機能障害/そしゃく機能障害、 音声・言語機能障害)
障害者自立支援法指定医(耳鼻咽喉科に関する医療)
難病指定医
緩和ケア研修会修了者
など

日本赤十字社医療センターとは

他科との垣根が低く、働きやすい病院です。
働きやすい病院
昔からそうなのですが、働きやすい病院です。他科との垣根が低く、他科の先生方に相談したり、コミュニケーションが取りやすいですね。
患者さんもフレンドリー
そういう雰囲気だからか、患者さんもフレンドリーです。場所柄、富裕層の患者さんもいらっしゃいますが、「そうなのよー」など肩をたたいてくる気さくな患者さんたちが大勢いらして、地方の病院の雰囲気に近いです。

現在の物部先生

部寛子 先生

日本赤十字社医療センター耳鼻咽喉科 部長
日本赤十字社医療センターの耳鼻咽喉科部長として活躍中!
耳鼻咽喉科は女性医師が多いですね。
女性は常勤医師が4人、非常勤医師が1人です。男性は非常勤で1人いるだけです。
その女性医師を束ねるトップとして、いかがですか。
女子校の経験はないんですが、結構面白いですね(笑)。女性は真面目に働きます。外来が空いてくると、医局に戻って論文を書いたりする人もこれまでには見てきましたが、女性はずっと外来にいて、誰かが忙しいと助けてくれたりします。
皆さん、仲が良さそうですね。
そうですね。私のすぐ下の副部長には子どもさんが2人いるので、さらに下の人たちにとっては憧れなんです。旦那さんもいて、お子さんもいて、学位も持っている…何でも持っているから、憧れだそうです。
部長として、女性医師の働きやすさをどのように実現されていますか。
土曜日、日曜日や連休の割り振りもなるべく平等にと考えています。実際にはナンバー2と3が勝手に振っているのですが、日曜日でも「私、来ます」、「来られます」という声が上がるので、すぐに決まります。私は子どもが大学生になり、時間ができたので、「誰も来られないなら、私が来るよ」と言うのですが、「大丈夫です。来ます」という感じなんです。メンバーにはとても恵まれたと思っています。
当直も同様ですか。
当直は日直と管理当直があり、管理当直は私と副部長が担当します。それから土曜日、日曜日には外科系の日直という当番があります。これは外科系で入院している患者さんの処方を出したり、胃瘻を直したりするもので、泌尿器科、皮膚科、耳鼻咽喉科といったマイナー科で回していますが、LINEのグループを作って、当直する人を決めています。担当日は各人が月に1日ぐらいですね。
耳鼻咽喉科医を志した理由

迷った結果「治るものもある」耳鼻咽喉科医の道に

細かい作業が好きだからです。耳鼻咽喉科での手術も好きですし、神経内科にも興味があり、めまいなども学びたいと思って選びました。神経内科や病理科と迷った結果、6年生のときに決めました。
病理科も選択肢にありました。変わっていますよね(笑)。止まっているものを見ているのも好きなんです。でも、ずっと止まっているものを見ているのも退屈そうな気がしました。神経内科は対象の疾患が認知症や脳梗塞といった治らない疾患がほとんどだったので、耳鼻咽喉科にしました。

物部先生の診療方針

自分や知り合いが受けたときに嫌でない診療を
必要な方に必要なことを勧めたい
自分や知り合いが受けたときに嫌でない診療をしたいです。診療実績を追求すると、オーバーインディケーションの手術になることもありますが、それは良くないです。必要な方に必要なことを勧めたいです。

このような姿勢が作られていったのは、やはり国内外の研究会に出て、自分がしていることが標準的なのかどうか、自分のいる位置を見極めたことからだと思います。

新専門医制度のもとで専門医取得の支援も

専門医を取ると全く違います!
専門医取得にチャレンジされている先生もいらっしゃいますか。
2年ぐらい前にナンバー3の人、今年は去年まで当センターにいた人が取得しました。来年は一番下の人が取ることになるでしょう。
どのような支援をされているのですか。
診療上の話し合いをしたり、抄読会をしたりですね。学会の発表も積極的に促しています。耳鼻咽喉科の専門医試験は合格率が60%台しかないので、試験の1年から半年ぐらい前からの準備が必要なんです。
先生も大変でしたか。
その頃は筆記式だったので、勉強し始めたら面白くなってしまい、アレルギー学会や中耳手術の勉強会などで時間を割かれていました。だからか、合格判定は一番下のレベルでした。通って良かったねという感じです(笑)。あのような試験は採点者が望む答えを優等生的に書かないといけないんです。好きなことを書くと落ちる試験だと思います。
専門医を取ると違いますか。
全く違います。判断などを任せられるようになりますし、専門医は取った方がいいです。そして、できれば学位も取ってほしいと思います。臨床を何となくするのではなく、研究マインドを持ってやった方が面白くなります。そういう研究を患者さんにフィードバックできるんです。
先生はどういう研究をなさってきたのですか。
子どもの中耳炎ウィルスです。会津にいた頃に一応、英文で書いていたのですが、学位の主査から2本目の論文を全部書き直せと言われました。6カ月以内に書き直したら通すと言われ、書き直せばいいんだと思って書き直しました。臨床しかしていなかったので、研究する時間もないし、研究からやり直せと言われたら駄目だったかもしれません。その後は中耳手術関係、前庭関係の論文が多いです。
今は市中病院勤務で学位を取ることは難しいのでしょうか。
内科は病院で育っていくこともあるでしょうが、マイナー科ですと最終的には大学病院を選んだ方がいいですね。内科と違って、マイナー科は市中病院だと症例に偏りがあったり、指導医の数も少ないです。大学病院は難聴、人工内耳手術、がん、再建手術などの全てが経験できますから、ある程度の経験を市中病院で積んだら、大学に入局するのが王道だろうと思います。
新専門医制度のもと研修中の先生はいますか。
現在はおりません。当センターは専門研修プログラムの基幹施設とはなっていませんが、他施設の連携病院として専攻医を受け入れることは今後はあると思います。
物部先生に直撃!
Q  &  A
Q1
医師を目指したきっかけをお聞かせください。
A1
何となくという感じです(笑)。身近に医師がいるわけでも、誰かに勧められたわけでもなく。でも、医師の中では「何となく」という人が一番多いと思いますよ。
Q2
東京大学に入局されたのですね。指導医の先生のご指導はいかがでしたか。
A2
当時の東大は頭頸部、耳、鼻、嚥下関係などに講師陣が揃っていて、人数も多かったので選びました。
指導は割と厳しかったです。妊娠、出産のときに「しばらく休んでもいいんじゃない」という話もあったのですが、当時の医局長から「先生のあとに女性が増えてくると思う。そういう前例を作ってはいけないから、産休の期間が終わったらすぐ戻ってくるといいよ」と言われました。その頃は育児休暇制度がなく、産前産後休暇しかなかったので、労働基準法通りの産前6週、産後8週だけ休んで復帰しました。
Q3
産後8週で戻られるとはすごいですね。出産から復帰された時のポジションはどうなっていたのですか。
A3
臨床から長く離れると戻りにくいと思っていましたから、私はそれで良かったです。今は言えないですけどね(笑)。その頃は実家も長野県にあって、母を頼るわけにもいかなかったので、保育所探しも自分でしました。その後は母に助けてもらうことが多く、去年まで一緒に住んでいました。だからオンコールや当直もできたんです。
出産から復帰された時のポジションは女性が少ない時代だったので、一般病院で産前産後休暇を取ると1人欠員になってしまいます。それで大学病院に戻り、医員という立場になっていました。大学の中では日雇い扱いの身分でした。
Q4
福島県や茨城県の病院にも勤務されたのですね。
A4
全て医局人事によるものです。地方は東京の病院とは全く違いましたね。それまでめまい外来にいたり、そこで小脳の細胞機能を勉強したりしていましたが、「息がいきなり苦しくなってきました」という甲状腺腫瘍増大による気道狭窄の患者さんがいらっしゃったりするので、違う科だと思うぐらいのギャップがありました。
Q5
日本赤十字社医療センターに来られた経緯をお聞かせください。
A5
子どもの中学受験のタイミングで東京に帰ってきたのですが、私が体調を崩してしまい、医局を辞めようかと思っていたところ、教授からこちらを勧めていただきました。
Q6
福利厚生などはいかがですか。
A6
有給休暇を取りにくいと思っている人はいないでしょう。夏休みも取れますし、海外の学会や研究会などにもなるべく行っておいでと言っています。これは夏休みとは別です。それで若い人たちが知識を増やしてきて、「あの病院ではこの手術をこうすると言っていましたよ」と報告してくれるので、「そうなの。じゃ、変えようか」という感じです。
Q7
週に2回の手術の日では朝9時から夕方まで手術してるそうですね。手術は体力が必要ですか。
A7
そうですね。内視鏡を持って手術するのは疲れるのですが、集中しているので、手術中は気になりません。下の人たちにも手術のトレーニングをさせないといけませんから、「やってね」と言うと、「はい、分かりました」とやってくれますが、3件もの手術は疲れるのではと心配しています。皆、よく頑張っていますね。これからはきつさを考慮します(笑)。
Q8
これまでのキャリアの中で印象に残っている出来事はどんなことでしょう。
A8
顔面神経麻痺の患者さんの中には標準治療をしても麻痺が残ってしまう方もいます。若い頃はそんなものだと思っていたのですが、段々と気になるようになってきました。学会で「そういうときは形成外科に頼んで、筋肉と血管を移植する大手術をすることを患者さんに勧めるように」と言われたので、患者さんに言ってみると、「そんなことはしたくありません」と言われました。私自身もそう言われたら、「いや、いりません」と答えるでしょう。そこで、知り合いの皮膚科の先生に相談すると、「ヒアルロン酸とボトックスぐらいで左右差をなくしてあげたらいいんじゃない」とアドバイスされました。うちの科の人たちも文献を読み、「そういう治療もありますよ」と言ってきたので、その方針にしたところ、患者さんには喜ばれています。
Q9
先生のワーク・ライフ・バランスの取り方をお聞かせください。
A9
子どもが大学に入り、帰宅時間が遅くなって、私も食事を作るぐらいで済むようになりました。それで、仕事や学会の仕事以外に何かしたくなり、フランス語を再開することにしました。以前、フランスの学会に行ったら、色々な国の人がフランス語を話していたので、「そうか、皆、フランス語を喋れるんだ」と思い、通信でフランス語を習い始めたのですが、半年で挫折したんです(笑)。それからスポーツジムにも通っています。
Q10
スポーツなど、ご趣味はありますか。
A10
スポーツは好きではないです(笑)。でも大学時代に体育会のテニス部だったんです。医師はストイックなことをするのが好きな人が多いですね。
現在は母がいなくなり、庭が荒れてきたので、植物を育てています。種を植えたら失敗したので、苗を買ってきました(笑)。食べられるから野菜がいいと思い、トマトの苗を植えたら、実が5センチ程度になってきました。

医学生・若手医師にメッセージ

とにかく辞めずに続けましょう

とにかく辞めずに続けましょう。30代の医師が育児を理由に辞めていったり、臨床の場から離れていくところを見てきました。今は一度、臨床の場を離れると、手術などが怖くなって戻ってこられない人もいる時代ですから、離れずに続けてほしいです。

続けるのが難しい状況にある先生もいらっしゃるとは思います。ある程度は経済的に余裕があるなら、保育ママなど、社会資源を利用しましょう。
私はあまり実家を頼り過ぎると、母親との関係が悪くなることが分かったので、社会資源の方がいいと思います。行政の保育ママだと1時間1000円ぐらいみたいですよ。そして職場に戻るときには専門医を持っていたり、「これはできる」、「この手術は得意」というものを作っておくと、常勤でも非常勤でも戻りやすいです。離職前に専門医を取っておくといいですね。
ただ、保育所には延長保育がありますが、小学生の学童保育の時間は短いです。そこでお勧めなのが子どもを塾に入れることです。少し可哀想な気もしますが、塾だと10時頃までやっているので、仕事が十分にできます。子どもが10歳ぐらいになると楽になりますし、いずれは「こんなに離れるんだ」というほど大きくなりますので、頑張って仕事を続けていきましょう。

病院アピール

赤十字精神「人道・博愛」の実践

概要

名称 日本赤十字社医療センター
院長 本間 之夫(ほんま・ゆきお)
所在地 東京都渋谷区広尾四丁目1番22号
病床数 一般 708床

診療科目

糖尿病内分泌科、血液内科、化学療法科、感染症科、アレルギー・リウマチ科、腎臓内科、 緩和ケア科、神経内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、メンタルヘルス科、 呼吸器外科、乳腺外科、胃・食道外科、内視鏡診断治療科、肝胆膵・移植外科、 大腸肛門外科、心臓血管外科、骨・関節整形外科、脊椎整形外科、脳神経外科、皮膚科、 泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、産科、婦人科、新生児科、小児科、小児保健、 小児外科、麻酔科、集中治療科、放射線治療科、放射線診断科、放射線血管内治療科、 リハビリテーション科、救急科、健康管理科、歯科口腔外科

主な機能

東京都救命救急センター
東京都地域救急医療センター
地域がん診療連携拠点病院
東京都総合周産期母子医療センター(母体救命対応総合周産期母子医療センター)
WHO(世界保健機関)・UNICEF(国際連合児童基金)認定「Baby-Friendly Hospital」
東京都脳卒中急性期医療機関
東京都地域災害拠点病院
東京DMAT指定病院
東京都エイズ診療協力病院(エイズ診療拠点病院)
地域医療支援病院
臨床研修指定病院
臨床修練指定病院
臓器提供施設
非血縁者間骨髄採取施設・移植診療科
東京都CCUネットワーク加盟施設
日本病院会・日本人間ドック学会/人間ドック・健診施設機能評価認定施設
日本輸血・細胞治療学会輸血機能評価認定制度(I&A制度)認定施設

その他の部門

看護部、薬剤部、病理部、輸血部、医療技術部、検査部、総務部、事業企画部、医療連携・患者支援推進室、国内医療救護部、国際医療救援部、周産母子・小児センター、MFICU、NICU、GCU、整形外科センター、救命救急センター、EICU、SCU、リウマチセンター、 血液浄化センター、血管内治療センター、 サイバーナイフセンター、健康管理センター、MEセンター、中央手術室、ICU、PCU、化学療法室、内視鏡室、医療安全推進室、感染管理室、教育研修推進室、災害対策室、がん相談支援センター、治験事務局


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