専門研修インタビュー

2023-05-01

佐賀大学医学部附属病院(佐賀県) 専攻医 案浦峻先生(総合診療科) (2023年)

佐賀大学医学部附属病院(佐賀県)の専攻医、案浦峻先生(総合診療科)に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

佐賀大学医学部附属病院

〒849-8501
佐賀県佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511
FAX:0952-34-2071
病院URL:https://www.hospital.med.saga-u.ac.jp/

案浦先生の近影

名前 案浦(あんのうら) 峻(しゅん) 専攻医
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 福岡県福岡市・金沢医科大学 / 2020年
初期研修施設 金沢医科大学病院
専攻医研修 総合診療科

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

 両親が医師で開業しています。両親から医師になれと言われた事はないのですが、人のためになる仕事、人の役に立つ仕事には就きたいと思い医師を目指しました。
祖父が医院を開業したのですが早くに亡くなり、父が継承したので私で3代目という事になります。
足利義満にしろ、徳川家光にしろ、3代目は偉大な人が多いので、プレッシャーですね。ただ、今は総合診療科を学んでいますし、自分のしていきたい医療と実家の医院の医療が一致するかどうか分からない事もあり継承については未定です。

学生生活はいかがでしたか。

 部活動、学園祭の実行委員会、学友会の活動が忙しく全く勉強しない学生でした(笑)。あの6年間をもう一度しろと言われても無理ですね。
部活動は野球部で、西医体で9年間ぐらい勝てていない弱小の部だったのですが私たちが幹部のときに「まず勝つ」事を目標にしてきつい練習をして、そこで勝てたというのが思い出です。
また母校は医学部だけの単科大学なので学園祭に関しては全て医学部生だけで実行していかなくてはいけません。
私は入学当初から実行委員会に入っていたのではなく、野球部の同期に誘われて途中から運営のメンバーとなり、人手が足りないところをカバーしていくという役目を担いました。一般的には入学と同時に委員会に入り、一つの部署で先輩のやり方を踏襲していくのですが私は下積みが無かったので大変でしたね。それから学友会というのは生徒会みたいなもので各部の予算を決めていくのが主な仕事です。
1学年5人のメンバーがいますが5人とも何らかの部に所属しているので忖度や優遇があると思われないように自分の部との面談や交渉には出ないといったルールのもとで予算の決定をしていました。
最後の1年は国家試験対策委員も務めました。
成績が悪い私がなぜ国対委員になるのかと疑問でしたが、「成績の悪い学生をまとめて上に上がってこい」と言われたので、頑張りました。このような学生生活だったので、科目を落としたこともありますし、ぎりぎりの成績でしたが何とか留年もせず、国家試験にも合格しました。

初期研修先を金沢医科大学病院に決めたのはなぜですか。

 理由は成績が悪すぎてマッチングに向かう余裕がなかった事です(笑)。
もちろん九州で幸せに暮らせる事は分かっていたのですが、北陸でこういう人達も居る、こういう暮らしがあると分かった事は良い経験でした。
特に気候の違いはありますね。金沢での1年目の冬に同級生が車から雪かき棒を出してきたのを見て私もすぐにオートバックスに買いに行きました(笑)。

金沢医科大学病院での初期研修はいかがでしたか。

 学生の時はのらりくらりと過ごしてきたし、喋りで何とかしてしまうので中身がないと思われがちでした。
それを何とかしないといけないのに全然できていないので20代の半ばも過ぎてようやく自分が無能である事を実感しました。
学生時代は同級生や仲の良い人達に囲まれている空間ですが、初期研修では知っているようで知らない空間になりますし、同期は40人弱いましたがコロナ禍で飲み会などもできず、仲良くなる機会が乏しかったのが辛かったですね。

どういった診療科が辛かったですか。

 外科が苦手でした。外科は治す事が原点にありそこを魅力に思う人もいるのでしょうが、私は両親が開業医という事もあり原点が外来なんです。
手術室の空間にも馴染めませんでした。
それで2年目の選択では肩の力を抜ける診療科を中心に回りました。
内科全般に興味があったのですが、オールラウンダーになりたいという意味で、外傷の患者さんが多い事から整形外科も回りました。

辛かった時はどのように乗り越えたのかについて医学生にアドバイスをお願いします。

 初期研修でプログラムを組むにあたっては、自由度の高い病院であれば割と自由に組む事ができます。誰にでも好きな科、嫌いな科はありますがそのバランスを取ることが大事です。
「この科は嫌いだけど、この1ヶ月は頑張ろう。」「次はきつくない科を回ろう」などと自分の体力と我慢強さを天秤にかけ頑張れるなら頑張りつつ、でも根を詰めずに自分を守る事を前提に研修しましょう。頑張りすぎると燃え尽きるという事が分かっているのであれば無理してバーンアウトしないよう、どこかで休憩をして自己管理するしかありません。
頑張るのは専攻医になってからで十分で、初期研修はとにかく終わらせる事を目標にするぐらいで良いと思います。

総合診療科をいつ目指したのですか。

 父が一般内科、母が循環器内科で開業しているので、私の中での「普通のお医者さん」が働く場所は外来であり、外来をきちんとできた上で、患者さんからの「実は先生、こんな事があってね」というお悩みに応えていけるようになりたいと学生時代から漠然と考えていました。
学年が上がっていくにつれ総合診療科の専門研修プログラムができるという話を聞くようになり、以前からの漠然とした思いを具現化できるのは総合診療科であると分かり、目指すようになりました。
総合診療科は救急科と同じぐらい、困っている人が来るところであり諦めない科です。
他科の事はよく分かりませんが、総合診療科は頭から腰まで、他科よりも多種多様な疾患が来るところも魅力でした。
その分、様々な知識が必要であり自分に足りない知識がある事を専攻医研修1年目で痛感しました。

専攻医研修の1年目を富山県の南砺市民病院で過ごされた理由・そこでの経験はいかがでしたか。

 総合診療科を専攻すると決めた時に、大学病院はチーム制なので、主体性が育たないのかと思い市中病院を希望しました。
初期研修2年目の終わりに南砺市民病院の内科で主治医を経験させて頂き、そこで患者さんの生命に関わるものすごく怖い思いをした事から総合診療科医として頑張っていきたいと考えるようになりました。

主治医を経験されてみていかがでしたか。

 病棟の患者さんの血圧が下がり、急変した時に何をすればいいのか分からず、点滴のオーダーを入れたのですが、組成が悪くナトリウムの数字が悪化してしまいました。
最終的には指導医の先生に助けて頂いたのですが、指導医の先生は患者さんの対応をされながら私に「先生、どうする」と聞き続けて下さってすごいと思いました。
また、高齢者が多い地域ですので看取りも多かったです。
自宅で倒れた50代の方を救えなかった事は後悔しています。
元々のベースも悪くご家族からも感謝のお言葉はありましたがそれでも悔しそうにしておられましたし当院のような三次救急の病院なら助けられたのではないかと私も悔しいです。一方で、在宅診療もしていました。急変した患者さんを病院で診たあとで、最後の5日間だけご自宅にてご家族で過ごす時間ができたという事でご家族から感謝されました。

専攻医研修の2年目で佐賀大学医学部附属病院に来られたのはどうしてですか。

 南砺市民病院での専攻医研修で、一般的な誤嚥性肺炎や脳梗塞を多く診てきて、一般内科は一通り見てきたつもりですが、同期がかなり優秀な人だった事もあり、私も彼のような知識を身につけたいと思いそういう環境を求めて当院に来ました。

現在はどのような専攻医研修を行っていますか。

 佐賀大学医学部附属病院は三次救急の病院で、他の病院では難しい疾患やどの診療科にも属さない、多岐に渡る疾患を持った患者さんがいらっしゃいます。
管理の難しさを感じますが遣り甲斐があります。
知識や経験のストックが増えていきますね。診療科同士の間を総合診療科が取り持つ、バランサーのような仕事も多いのですが、私は学生時代の部活動や委員会でもナンバー2の役割を担うことが多くバランサータイプだと自覚しているので横から手伝うのは性に合っています。

専攻医研修で勉強になっているのはどのような事ですか。

 ICUやPICUなどの集中管理です。
血圧やモニターでの厳密な管理が必要な患者さんと対峙するのは勉強になります。

専攻医研修で遣り甲斐を感じるのはどのような時ですか。

 南砺市民病院は二次救急の病院なので、患者さんの病気が治ったり元気になって退院したりという事が遣り甲斐になっていましたが、佐賀大学医学部附属病院での遣り甲斐はカンファレンスという形で自分の知識や診療に対するフィードバックを毎日頂ける事です。
「こういう風にやろう」「ここはこんな風にして」というポイントを1つずつ修正していくたびに自分の血となり肉となることを実感しています。

案浦先生の写真

専攻医研修で辛い事はどのような時ですか。

 南砺市民病院での専攻医研修との比較になりますが、南砺市民病院は主治医制でしたが、当院はチーム制で皆で助け合っているので帰れない事もあることです(笑)。
急患がいらっしゃれば見に行かないといけないとなりますが、経験値を積めているので、そのモチベーションがある限りは大丈夫です。
南砺市民病院では一人当直で、救急車受けも一人でしておりその怖さもありましたが、当院は二次救急の病院よりも重症な患者さんが来られますので、緊張感を強いられつつも遣り甲斐があります。

当直の体制をお聞かせ下さい。

 月に3、4回あります。総合診療科では科の病棟の対応がメインです。
今はウォークインは基本的には受けないのですが、当院にかかっている患者さん、どうしても行き先のない患者さんの対応はあります。
一晩に3人ぐらいいらっしゃると、それなりに多かったなという印象です。
総合診療科はどの科が診るべきなのかが分かりにくいところをカバーし、皆が平和に働けるような手伝いをしているので、それも総合診療科の存在意義かもしれません。
診断も診察もするけれど院内の軋轢を生まないシステムになっているのは素敵だと感じています。

当直で勉強になっているのはどのような事ですか。

 三次救急の病院という事もあり、診断に至るまでの診察が確定できるレベルの診察だったのかということをきちんとフィードバックして頂ける事です。
「ここまで検査しないといけない」「ここが足りなかったね」「ここまですれば絞り込めるよ」と言って頂けるのは有り難いです。
外来でも1回ごとにフィードバックがあります。
市中病院は数をこなさないといけないのでそこまでのフィードバックは難しいのですが、大学病院はスタッフ数が豊富なので上の先生方の考え方を学べます。

指導医の先生方のご指導はいかがですか。

 当院では経験年数があり、洗練された知識と考え方をお持ちの上級医の先生方からのアドバイスを頂けるのが勉強になります。どういう時でも穏やかに対応される先生方ばかりですね。
チームは指導医の先生、中堅の先生、私、初期研修医で構成されているのですが、私が年下ながらに生意気なことを言ってもきちんと聞き入れて下さるので仕事しやすいです(笑)。

カンファレンスはいかがですか。

 自分の考えだけで突っ走ると抜けていることが出てくるので、そこをフィードバックして頂けるのは良いところだと思います。
人前で発表するのは自分の携帯電話の中身をさらけ出すようなものなので恥ずかしいのですが、そこを見せないと成長はありません。
私は検査をする前に、その患者さんの病歴を尋ねた時点で、その検査が有用なのかどうかを考える習慣を持ってはいたのですが、カンファレンスでは「これを確認していないのに、これがないとなぜ言い切れるのか」と聞かれたりするので、「この検査までしないと確定できない」といった事をかなり意識するようになりました。

病院に改善を望みたい事はありますか。

 大きな病院なので厳密に管理しないといけないことは分かりますが電子カルテの情報がどこに何が書いてあるかわかりにくく、カルテの表示形式は何とかわかりやすくならないのかと思います。

コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがですか。

 初期研修医の時に比べると、年次が上がってきたという面もあるのでしょうが、丁寧に対応して頂いています。
いい環境ですね。優秀な方々ばかりですし私としても気分で対応を変えたりする事がないように気をつけています。

専攻医同士のコミュニケーションはいかがですか。

 総合診療科に同期が一人いますが助け合っていますし、たまに一緒に食事にも行っています。彼のチームの上の先生方が外勤なので彼が一人になっていれば私のチームの皆で彼をカバーしていますし、その逆もあり、持ちつ持たれつですね。
専攻医の同期がいないと分かり合える人がいなくなり、それは辛いのでいてくれて有り難いです。
南砺市民病院にも同期がいて助け合いながら仕事をしていました。

今後のご予定をお聞かせ下さい。

 総合診療科を専攻する中で、内科をどこまで究めるのか、あるいは救急対応をどこまで頑張っていくのか、どちらに力を入れるべきか悩んでいます。
救急医のように救急を診たり、外来をしつつ病棟管理もしたりと幅広く診る事ができるのが総合診療科の良いところでどれも捨てきれない事が悩みです。

専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

 私は初期研修を母校の大学病院、専攻医研修の1年目を富山県の市中病院、2年目からは佐賀大学医学部附属病院にいますが周りの環境は大事だと思います。
人数が少ないところでは負荷が大きくモチベーションが高くても一人でできる事には限界がありますが人数が揃っていると働き方もフレキシブルになるし自分の希望も通りやすいです。
悩んだり職場が合わない、負担が大きくて耐えられない、逃げたいと感じたら逃げたらいいです。医師免許があれば、働ける場所はあります。
初期研修は終わらせないといけませんがそれが終われば好きなところに行けば良いんです。
良い環境にいればそれに合わせて自分も良くなるし、悪い環境ではそうはならないです。そこで努力できる人はほとんどいません。
見学では働いている人達の目が輝いているかどうかを見ましょう。
一人だけが輝いていて周囲の人の目が死んでいるような病院はお勧めできません。
今はコロナ禍も落ち着いていますので休みも取れますし、回っている科に迷惑をかけると思い込まずに堂々と休みましょう。専攻医研修は初期研修よりも大切な研修なので積極的に見学に行ってみて下さい。

医学生にもメッセージをお願いします。

 社会人になったら働かないといけないので自由がある学生時代にしかできない事を楽しんで下さい。
こういう事をしたかったなという後悔よりもこれだけ楽しめたのだからと納得する方が大切です。

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