専門研修インタビュー

2023-04-01

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院(神奈川県) 指導医(専門研修) 大島晋先生、専攻医 山口洸先生(外科) (2023年)

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院(神奈川県)の指導医、大島晋先生・専攻医、山口洸先生(外科)に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院

〒212-0014
神奈川県川崎市幸区大宮町31-27
TEL:044-544-4611
FAX:044-549-4858
病院URL:https://saiwaihp.jp/

大島先生の近影

名前 大島 晋(すすむ)
川崎幸病院 川崎大動脈センター長 大動脈外科部長 指導医

職歴経歴 1983年に大阪府大阪市に生まれる。2009年に産業医科大学を卒業し、中頭病院で初期研修を行う。2011年から川崎幸病院の大動脈外科で勤務。

山口先生の近影

名前 山口 洸(こう) 専攻医
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 千葉県船橋市・聖マリアンナ医科大学 / 2019年
初期研修施設 川崎幸病院
専門研修 外科(大動脈外科)

川崎幸病院の特徴をお聞かせください。

大島
 当院は法人理念である「患者主体・断らない」に徹底的にこだわり、求められる以上の医療を提供することを目指しています。病院の主軸を当院のアイデンティティである脳心血管治療やがん治療、地域で必要とされている泌尿器科や婦人科などの医療、総合内科や救急医療を基礎とする医療者教育と定め、地域のニーズに応えながら世界的レベルの医療を展開し、将来の有能な医療人を輩出するという使命を担っている病院です。

大島先生がいらっしゃる大動脈外科の特徴もお聞かせください。

大島
 胸部の大動脈手術症例が年間550から600例ほどあり、日本で一番多いです。ステントグラフトの治療も腹部が年間150から200例、胸部が70例ほどありますので、大動脈外科の勉強をするにあたっては日本で最も経験が積める病院だと思います。助手から始まり、将来的には術者として、手術を完遂できるようになって欲しいと思っています。例えば、当科には現在、3人の外国人医師が研修留学に来ているのですが、そういう言葉がうまく通じない人が助手であっても、一緒に手術ができるようにしっかり勉強し、マスターしようと言っています。

川崎幸病院の外科専門研修プログラムの特徴をお聞かせください。

大島
 どちらかと言えば、専攻医として育てるというよりは当院のスタッフの一員になってもらうように育てています。当院を卒業後に何かになるというよりも、当院に残って、大動脈外科の手術を一生かけてやっていきたいという人を育てたいですね。

川崎幸病院での専門研修プログラムは2022年に始まったばかりなのですね。

大島
 そうです。そのため、まだ卒業生はいないのですが、今後のプランとしては当院で大動脈外科を学び、スタッフになって、手術を積極的に手がけてほしいです。私たちの目標は年間の症例を2000例に増やすことです。今は術者と呼べる人が4人なのですが、これを10人に増やしたいので、専門研修プログラム終了後はアティンディングサージョンとして、当院で働いてもらえればと思っています。

カンファレンスについて、お聞かせください。

大島
 台湾、タイ、インド、フランスなどから研修留学に来ている医師がいますので、毎週月曜日に英語でカンファレンスをしています。大動脈外科で困った症例を外国人医師に出してもらったり、私たちも出したりして、症例検討会をしています。1回のカンファレンスで2例ずつ、1時間少しの時間をかけて検討しています。このほか、毎朝の術前カンファレンス、週に1度の翌週の手術の検討会もあり、全て英語で行っています。

専攻医も発言の機会が多いですか。

大島
 専攻医がプレゼンするので、当然多いですね。

山口
 毎日プレゼンさせていただいています。指導医の先生方から厳しくも、丁寧で愛のあるご指導をいただいています(笑)。

大島
 週1回のカンファレンスだけでなく、毎朝のカンファレンスも英語で行っています。英語しか通じない先生方が何人もいるので、その意味でも英語の良い勉強になっているようです。私も海外の学会で最初に発表したときはとても緊張したのですが、こういう機会に慣れておけば、海外の学会で発表することになっても、そこまで物怖じせずに済むのではないかと思います。そういう訓練の場にもなっていますね。

山口
 専攻医研修が始まってから、確かに英語の力はつきました。英語でのプレゼンにも慣れてきて、原稿を見ずに話せるようになってきましたし、耳も良くなってきたなという実感があります。

大島先生の研修医時代はいかがでしたか。

大島
 できるだけ病院にいる生活をすることを心がけていました。今は働き方改革が進んでいますが、当時は働き方改革はまだなかったものの、「研修医は早く帰りなさい」「あまり残業しないでくださいね」とは言われていたんです。でも私は「先生方の時代はずっと病院にいたんですよね。それで今の先生方のような素晴らしい先生になれたんですよね」と言って、病院にいることにしました(笑)。デューティーの診療時間内であればカルテや紹介状を書いたり、雑務をしたりで、患者さんをゆっくり診ることはできませんが、業務終了後の時間であれば「あの患者さんは興味あるから診てみよう」といった動きができ、色々な患者さんの状態を診ることができました。そういう意味で、病院に長くいると学べるチャンスを多く得られると思っていました。

先生が初期研修で群星沖縄臨床研修センターを選ばれたのはどうしてですか。

大島
 私は学生時代に心臓血管外科を専攻しようと決めました。心臓血管外科の中には大動脈外科や末梢血管外科などの分野がありますが、まずは心臓血管外科医になろうと考え、当院の山本晋院長に相談に行ったんです。そこで大動脈外科は心臓血管外科の中でも一番大変で、手術も難しい分野だと知り、私も大動脈外科にチャレンジしたいと思いました。山本院長へ初期研修の相談をしたところ、群星沖縄臨床研修センターの病院の一つである中頭病院を勧めていただきました。「中頭病院の大動脈外科の医師は皆、顔つきが違う。生き生きしていて、遅くまで残って、本当によく働いている人たちだから、そこで学べば絶対にいい医師になれる」と言われ、熱心に勉強できる初期研修病院だと考え、中頭病院を初期研修先として選びました。

大島先生・山口先生の写真

初期研修終了後についてお聞かせください。

大島
 山本院長から「人がいないから、すぐに来い」と言われたからです(笑)。初期研修の修了式が終わった直後から当院で働いています。

山口先生はいつから大動脈外科を目指していたのですか。

山口
 大学5年生のときにポリクリで心臓血管外科を回り、心臓を触らせていただいたのがきっかけで、心臓血管外科医になりたいなという気持ちが少しずつ出てきました。偶然、当院を見学する機会があり、当院の大動脈外科が日本で一番の症例数だと知り、心臓血管外科と大動脈外科のどちらにするのかを選びきれないままでしたが、初期研修の中で決めていこうと思い、当院で初期研修をすることにしました。

初期研修を振り返って、いかがですか。

山口
 全体的に手技も多く、自分で忙しくしようとすれば、いくらでも学べる研修でした。研修先として、とても人気がある病院だというのも実感できました。心臓外科、大動脈外科に限らず、専攻する可能性のある診療科は全て回り、最終的にはやはり心臓外科と大動脈外科という二択になりましたが、それぞれを一生懸命に研修したうえで、先生方の働く姿や人との接し方を見て、大動脈外科の方が自分に合っていると思い、大動脈外科を専攻することに決めました。

大島先生からお誘いはありましたか。

山口
 初期研修中に飲みに誘っていただき、科の雰囲気を教えていただいたことはありました。

大島
 当科は日本で一番忙しいので、山口先生が「大動脈外科で専攻医研修をしたい」と言ってきたときに「駄目」と言って断ったんです。「そんなに甘いものじゃないから、考え直してきなさい」と2回断りました。その後、3回目に来たときに覚悟を感じたので、それならとお受けしました。私たちは基本的には勧誘しないんです。働き方改革ができないぐらい忙しく、厳しいところなのに、無理に勧誘して入ってきてもモチベーションが続きませんからね。そのため、本当に大動脈外科の手術をしたいという強い意志を持っている人だけをお受けしています。山口先生もまずまず頑張っていますね(笑)。

山口
 私が初期研修を終えたときに、当院は呼吸器外科の基幹病院指定が下りるのを待っていた段階で、専門研修プログラムができていなかったんです。大島先生からは「他院で研修するか」と聞かれましたが、私は1年待ってでも当院で専攻医になりたかったので、1年は大動脈外科にスタッフとして勤務していました。そして1年後に専門研修プログラムを開始しました。

専攻医1年目の現在はどのような研修内容なのですか。

山口
 曜日ごとに決まったスケジュールはカンファレンスぐらいで、手術は緊急も含めて、毎日あります。参加させていただける手術であれば、参加しています。

大島
 手術は毎日ありますね。基本的には手術に入れるのは2人か3人なので、交代制となっています。山口先生は週に2、3回ほど、第一助手として入っています。今は開胸や人工心肺確立などを行っています。

専攻医研修で特に勉強になっていることを教えてください。

山口
 全てです。毎日、必死に一つのことを全て吸収できるよう、限界まで頑張っています。

専攻医研修で遣り甲斐を感じるのはどのようなときですか。

山口
 毎日、限界まで自分を高めている感覚があるので、その成長を感じるという点で遣り甲斐があります。

専攻医研修で辛いことはどのようなことですか。

山口
 眠れない日が続くと辛いですね。

大島
 月に6日の休日があるでしょう(笑)。

山口
 確かに、大学病院の心臓血管外科で専攻医研修をしている同級生に聞くと、月に1、2回しか休めないそうです。当院の大動脈外科では月に6日は完全な休日をいただけるので、ホワイトな職場だなと思っています(笑)。

大島
 私は10年間、休みは月に1日でした。彼は最初から月に6日あるので、恵まれていますよね(笑)。

当直の体制をお聞かせください。

山口
 月に6回か、7回です。

大島
 回数は私も同じです。体制は2人で、若手2人にならないように、指導医と若手が1人ずつ入るようにしています。

大島先生・山口先生の写真

当直で勉強になっているのはどのようなことですか。

山口
 集中治療管理です。当直中は一人で診るので、日中と比べると責任の重さが違います。その中で患者さんと向き合うというところがとても勉強になっています。

初期研修医の指導はどのようにしていらっしゃいますか。

山口
 大動脈外科をローテートしてきたときは専攻医がメインで指導しますし、ERでのコンサルトを受けることもあります。初期研修医に対して、疲れている姿を見せるのは良くないので、できるだけ明るく接するようにしています。

大島先生が専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

大島
 私も、山本院長もそうでしたが、専攻医には完璧を求めます。中途半端なことは求めません。人工心肺を載せたり、大動脈に針をかけるという動作では一歩間違えれば、患者さんは簡単に死に至りますので、完璧でない限り、手術する資格はないと思って指導しています。皮膚を切る方向、止血していく順番、糸をかけていく順番などは全て手順が決まっていますので、その一つ一つを全て完璧に進めないといけないと言っています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

大島
 人間の能力はそんなに変わりはないものですが、私自身と比較すると、もう少しできればいいのに、もう少し先に行けたらいいのにと思ってしまうことがありました。しかし、私は山本院長をはじめ、上の先生方に伸び伸びとさせていただいたから、できていたのかもしれません。そう考えると、専攻医には伸び伸びとさせ、成長を妨げないような指導をしないといけないと心がけるようになりました。もちろん駄目なものは駄目なのですが、専攻医がしてみようとすることに関してはブレーキを踏まず、できることをさせてみて、それができれば次のステップへ、そしてまた次のステップへと進ませることができるよう、専攻医のモチベーションを高め、チャンスを与えていきたいと考えています。

山口先生は病院に改善を望みたいことはありますか。

山口
 特にありません。お給料も十分にいただいています(笑)。

コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがですか。

山口
 当院はコメディカルの皆さんがとてもいい病院なんです。看護師さん、リハビリのスタッフの皆さんをはじめ、救急救命士の方々もいらっしゃるのですが、仕事ができる方ばかりなので、恵まれた環境で働けています。

専攻医同士のコミュニケーションはいかがですか。

山口
 大動脈外科には同期はおらず、1つ上の先輩がいますが、お互いに困っていることを話し合ったりもできていますし、良い関係性を築けています。他科の専攻医との横の繋がりも厚いです。

今後のご予定をお聞かせください。

山口
 今も手術の経験を積ませていただいてはいますが、術者としての責任を負って手術することがまだできていないので、少しでも早く術者として独り立ちできるよう、精進したいです。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

大島
 上級医が残っているのに、どうして初期研修医は17時で帰るのでしょうか(笑)。働き方改革は大事なのでしょうが、ゆとり教育と同じで、このしわ寄せは20年後に来ます。そうなると、一番苦労するのは患者さんです。私たち世代も20年後は患者になっている可能性が高いですので、私たち世代も苦労することになると思います。

専門医制度についてのご意見をお願いします。

大島
 本質的なトレーニングができるようなシステムであればと思います。例えばオフ・ザ・ジョブトレーニングと称した、模型を30時間縫うなどのトレーニングは人体には全く当てはまりません。当院は幸いなことに症例が豊富なのでいいのですが、一部医療機関に人を集めるシステムになっているような気がしています。今の日本の大学病院で心臓血管外科の第一線で活躍されている先生方は、海外や日本のハイボリュームセンターで症例と経験を積まれた方々が多いです。
その点、当院は術者が何人もいますし、専攻医にも人工心肺を載せるなどのできることをさせています。当院は人の人生の貴重な時間を雑用ではなく、貴重な研修に当てたいと考えています。

山口
 他施設で研修をしたことで、当院では学べないものを経験することができました。

初期研修の病院を選ぶ医学生にメッセージをお願いします。

山口
 大動脈外科に興味があるのであれば、当院での初期研修は間違いありません。心臓血管外科全体としても良い病院です。当院で初期研修をした一人として言えることですが、当院では手技の経験も積めますし、ほかの科でも色々な経験をさせていただけるので、お勧めです。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

大島
 若いうちに多くの苦労をしておきましょう。最初にぬるま湯に浸かったら、それ以上に熱いお風呂には入れません。自分が忙しくいられて、色々なことにチャレンジできるような病院がいいです。一生続けられる仕事を始めるのですから、チャレンジできる環境を探してほしいですね。当院にいらっしゃるのであれば、きちんと鍛え上げます。当院の大動脈外科は厳しいのですが、症例数は日本一ですし、世界でも有数の症例数でしょう。フランスやタイから研修に来ている医師もいますし、世界で通用する医師になれるチャンスのある病院であり、診療科であると思いますので、そういう世界の舞台で頑張ってみたい人は是非、当院の門を叩いてみてください。

大島先生・山口先生の写真

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