初期研修インタビュー

2023-02-01

北九州市立八幡病院(福岡県) 指導医(初期研修) 岡本好司先生 (2023年)

北九州市立八幡病院(福岡県)の指導医、岡本好司先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

北九州市立八幡病院

〒805-8534
福岡県北九州市八幡東区尾倉2-6-2
TEL:093-662-6565
FAX:093-662-1796
病院URL:https://www.kitakyu-cho.jp/yahata/

岡本先生の近影

名前 岡本 好司
院長 指導医

職歴経歴 1958年に大阪府で生まれる。1985年に産業医科大学を卒業後、産業医科大学病院、九州厚生年金病院で臨床研修を行う。1992年に産業医科大学大学院を修了し、産業医科大学第1外科学講座に助手として勤務する。1995年に産業医科大学第1外科学学内講師、2002年に産業医科大学第1外科学講師を経て、2011年に産業医科大学第1外科学准教授に就任する。2011年11月に北九州市立八幡病院に勤務し、2022年4月に院長に就任する。
日本外科学会認定医・専門医・指導医、日本消化器外科学会認定医・専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会名誉高度技能指導医、日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本乳癌学会認定医、日本腹部救急医学会腹部救急教育医・腹部救急認定医、消化器がん外科治療認定医、日本Acute Care Surgery学会Acute Care Surgery認定外科医、日本血栓止血学会血栓止血認定医、日本外科感染症学会外科周術期感染管理認定医・教育医など。

北九州市立八幡病院の特徴をお聞かせください。

当院の特徴として、まずは救急医療が挙げられます。
成人と子どもを対象とした救急医療で最も重視する点が24時間365日、断らない救急医療です。小児、成人に関わらず、幅広く受け入れている救命救急センターは政令都市である北九州市にたった2つしかなく、そのうちの一つが当院です。
特に当院は子どもだけで、コロナ禍前は年間およそ5万人を受け入れており、昨年度はコロナ禍であっても、4,300台近い救急車での搬送がありました。コロナ診療の重点拠点としての役割も3年ほど担っていますので、かなり大変です。
がん疾患も扱いながら、地域に根ざし、地域に一番近い医療が持ち味です。小児科に強みがあり、100人ほどの医師のうち、小児科医が約40人も在籍しています。3交代制もしくは2交代制の夜間勤務シフトで、きめ細かな救急医療、小児医療をメインで行っています。
さらに公立病院という立場から、北九州地域全体の防災の担い手でもあり、災害拠点病院のトップの位置にあるのが当院です。敷地内にある図書館の上部階に大地震などの災害時に災害医療作戦指令センター(Disaster Medical Operation Center:DMOC)が、北九州市医師会医療救護計画に基づき設置されています。
「災害拠点支援センター基地」となり、自治体からの命を受けて、いわゆる北九州地域で何か災害が起きたときには北九州全域の災害医療救急の中心を担っていく役目を課せられています。したがって、救急、小児救急、災害医療の3本柱が当院の特徴です。

岡本先生のご専門は外科なのですね。

私は消化器外科医を40年近く続けてきました。
専門は消化器外科、特に肝胆膵外科で、肝切除数は2,000例ほどあり、西日本でも5本の指に入ると思います。
さらには日本の診療ガイドラインで唯一世界基準となっている急性胆管炎・急性胆嚢炎診療ガイドライン、世界の医師たちにはTokyo Guidelines for the management of acute cholangitis and cholecystitisと呼ばれていますが、このガイドライン作成にかれこれ20年近く携わっています。世界中の医師が急性胆嚢炎の患者が来たら、どういうふうに診療して、診断して、どういう治療をするかとの診療の流れであるフローチャートを含めて英語で作成したのですが、私が中心となって作成し、このフローチャートの論文の第一著者に選んでいただいています(笑)。
普段から複数の大学病院でも教えていますし、がん以外にいわゆる腹部救急も担当しています。
もう一つの専門として、外傷を診られる外科医でもあり、肝臓破裂や膵臓破裂などを北九州市内で一番多く診ているのは私だと思います。

北九州市立八幡病院の初期研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。

当院の初期研修医数はこの数年最低数の1学年2人に減らされていました。私が赴任してから、努力が実り2023年度からは3人となります。少人数であることが不幸中の幸いであり、初期研修医1人あたりの指導医数が非常に多く、さらには他院の初期研修を脱落した人を多数引き受けていますが、それを含めても初期研修医数に対して、指導医数が圧倒的に多くいます。その特徴を活かし、複数の指導医が常時、初期研修医に指導できる体制を作っています。
初期研修では色々な専門科を回りますが、専門科の垣根をなるべく取り払うようにしています。当院は公立病院ですから、様々な大学出身の指導医がおり、学閥もあまりありませんので、非常に手厚い指導を受けられることも特徴です。
加えて、初期研修医の少なさゆえのさらなるメリットとして、自由度の高さが挙げられます。「救急を2カ月回ったが、あと1カ月延ばしたい」「次は外科の予定だったが、内科が興味深かったから循環器内科に変更して回りたい」という希望が出れば、随時面談し、認められた場合はローテート先の診療科を途中で自由に変更できます。なるべく初期研修医の希望に添えるようなローテート計画を随時作っているのは当院ならではの強みです。
大変なこともありますが、「初期研修医ファースト」を心がけ、初期研修医を育て、「この病院は良いから残ろう」と希望してもらえるような病院になりたいと考えています。指導医や事務スタッフが忙しいというのはたかが知れていることであり、医師にとっての一生に一度の初期研修を本当に充実させたいのです。
だからといって初期研修医を甘やかすわけではなく、意見を聞いたうえで、一人一人の進む方向を良い方に導いていけたらなと思っています。

岡本先生の写真

初期研修医は福岡県出身者が多いですか。

福岡県出身の初期研修医が多いということはないですよ。出身地で選んでいるわけではなく、もちろん福岡県出身者が多い年もありますが、全国から集まっています。今年も広島県や東京都の出身者がいます。

「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。

最初の初期研修先でドロップアウトし、自信をなくして、患者さんを診ることすらできなくなっていた初期研修医が当院で頑張り、普通の医師として育っていった例が複数あるのは嬉しいですし、それぞれが印象に残っています。
また、年齢を重ねていた女性医師で、結婚が決まり、出産までされたうえに初期研修をきちんと終えた人もいましたし、中学生のお子さんがいながら医学部に進学し、卒業後に当院で初期研修をした人もいます。
当院はそういう方々でも研修しやすく、2年間を全うできる環境です。
当院は小児科が強いので、保育施設もあり、小児科の医師に診てもらうこともできるので、お子さんが発熱などをしても困らないんですね。子育てしながらのお母さん研修医や研修中に出産した研修医の先生方は、2人とも成績優秀でした。母は強いですね(笑)。

研修医に「これだけは言いたい」ということはありますか。

自分に厳しく、人に優しくあってほしいです。やはり楽をして医療は為せません。そして、指導医に意見を言いに行き、きちんと主張して、ディスカッションしてほしいです。
自分の意見が否定されても、なぜ否定されたかの理由と、どちらが正しいのかという吟味する力をつけてほしいですね。そして、どうしたら否定されない、良い意見が作れるのか、どこが悪かったのかを考えるところまであと一歩、進んでほしいです。それができれば、社会人としても成長しますし、人としての深みが出るはずです。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

私はこの臨床研修制度は間違いだと思っています。
理由は枠があるため、研修したいところで研修できないからです。
「この病院は5人」などの定員が割り振られていたら、自由競争ができません。行きたい病院を受験しても、人気があるところには行けないというのは少し引っかかります。
私の時代は自由競争ですから、極端な話をすれば東大の外科に入局したいと言えば、100人の希望者がいても入局させてもらえたはずです。医師に限らず、職業選択の自由があるのに、「福岡県は医師が多いから、地方に」というのはおかしいです。
それなら、厚生労働省は名古屋、国土交通省は北海道のように、霞が関も分散するといいです(笑)。自分たちは東京にいて、医師だけ分散させることには違和感があります。
新しい技術は大きな病院に集まりますし、そうした病院は優れた医師や指導医が多いので、そこに勤めたくなるのは当然です。ある程度のキャリアを積めば、地方で診療所を開業する選択肢もありますが、何もできない初期研修医が地方で何ができるのでしょうか。それなら医学生のポリクリで3カ月ほど地方に行くべきです。
「鉄は熱いうちに打て」と言うように、初期研修で身につけないといけないことは多くあるのに、人口3000人や5000人といった小さな町にある高齢医師が開業している診療所で研修しても、学ぶべきものは少ないです。
人生の勉強になるかもしれませんが、それは学生時代にしておけばいいのです。
初期研修は専攻医研修に進むまでの過程なのですから、高度医療を学べる病院にいた方がいいです。子どもが大きくなったら異動もなかなかできないですし、地方に行くのは専門医を取った直後がベストです。
また、産婦人科は地方の医療体制が厳しくなっていますので、産婦人科の専門医資格を取るためのシステムを4年にして、そのうちの1年を地方で過ごすということにすればいいでしょう。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

まずは見学に行き、その病院の雰囲気を経験してから選ぶことが大切です。指導医の話を聞いたり、真の病院の雰囲気に触れたりするためにも1回とは言わず、2回以上行きましょう。
行きたい病院を10選び、情報を得て、見学し、その中で良かった病院を3つ選んで、もう1回行きます。
当院でも1回だけの人よりも2回以上来た人が受かりやすいです。それは当院を理解できているからなんですよね。
当院は初期研修医を大事にしたシステム作りをしています。もちろん初期研修医とは感覚が違うので、「いや、してもらっていません」と言う人もいるかもしれません(笑)。人間は与えられたら与えられただけ、さらに欲しくなる動物なので致し方ないところもありますが、当院は少なくとも昔ながらのシステムではありません。
指導医数が非常に多いこと、プログラムの自由度が高いことが自慢です。救急、小児救急、災害医療に力を入れており、特に災害医療の訓練といった機会は他院ではなかなか見られるものではありませんので、どうぞお問い合わせください。

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