初期研修インタビュー

2021-05-01

沼津市立病院(静岡県) 初期研修医 上野寛之先生 (2021年)

沼津市立病院(静岡県)の初期研修医、上野寛之先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2021年に収録したものです。

沼津市立病院

静岡県沼津市東椎路字春ノ木550

医師近影

名前 上野 寛之 医師
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 千葉市・ 東北大学 / 2020年

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

父が医師であることが大きいです。父は放射線科医で、主に放射線治療に携わっており、帰宅が遅かったのですが、患者さんや治療の話を聞くうちに遣り甲斐のありそうな仕事だと思いました。また、私が小学校高学年の頃、祖父が血液の疾患で闘病していた姿を見て、何かできることはないかと考え、少しずつ医師を目指すようになりました。

学生生活ではどんなことが思い出に残っていますか。

東北大学は「研究第一主義」を謳っており、かなり前から研究室配属というカリキュラムを導入しています。今は必須のカリキュラムが多くなってきたので、私の下の学年からは期間が短くなったようですが、私のときは大学3年生の6カ月間はフルタイムでの研究に当てられていました。ほとんどの人が基礎系の研究室に行くのですが、私は臨床を見たかったので、病理学の研究室を選び、病理部に勤務している先生方と一緒に顕微鏡を見て、勉強させていただいたんです。私は乳がんのコレステロール代謝の研究をされている先生につき、免疫染色などを研究しました。そして、4年生の9月にある程度まとまったものを学会でポスター発表しました。その後、その先生は私が研究したものをさらに深められ、学位論文として発表されたと伺い、私も研究を頑張って良かったなと思いました。今年4月から当院に来る初期研修医の中に東北大学の出身者がいて、やはり研究を頑張ったそうなので、話をしてみたいなと楽しみにしています。

サークルなどはいかがでしたか。

医学部のフットサル部に入りました。高校までは知り合いとフットサルをしていた程度で、特にスポーツをしていたわけではありません。そこまで活発な部活動ではなかったのですが、4年生のときは主務を務め、運営や会計、事務作業をしていました。フットサルは東医体の正式な種目ではないのですが、関東の大学を中心に勝手に集まって東医体のような大会を開き、そこで優勝したことが思い出に残っています。私は試合には出ず、皆をサポートする側でしたが、フットサル部に入っていて良かったなとご褒美をもらえた気持ちがしました。

大学卒業後、研修先を沼津市立病院に決めた理由をお聞かせください。

学生時代は東北大学の関連病院で実習しましたが、東北大学だと脳卒中のような卒中系は脳神経外科が診る、変性疾患は内科が診るといった大学や地方ならではのルールがあります。私としては色々な考え方や方法を学びたかったので、様々な医局から医師が集まっている病院で見てみたいと思っていました。そこで、姉が以前、沼津市立病院で初期研修をしていたこともあり、見学に来ました。

医師近影

沼津市立病院に最初に見学に来られたときの印象はいかがでしたか。

5年生の夏に初めて見学に来たのですが、呼吸器内科の先生が初期研修医の先生と私にレクチャーをしてくださったんです。とても教育的な病院だなと感じました。6年生の夏にも見学に来ましたが、そのときは私の1年上の初期研修医の先生が救急に熱心に取り組まれており、色々と教えていただきました。その先生がかなり勉強されていたということもありますが、こういうふうになりたいなと憧れました。この病院ではそういうふうに指導をしておられるのかなと思うと、印象が良かったです。今は私も初期研修医として、見学に来た学生に説教臭くなく、受け止めやすい話をしたいと考えています。

沼津市立病院での初期研修はイメージ通りですか。

臨床の現場に出ると、大学の講義よりも実践的な内容になります。当たり前のことですが、それで自分に足りないところが大量に出てくる感じなので、それに必死に立ち向かっています。ただ、先生方に「こういう理由で分からないんです」と質問すれば、「こういう本を読んだ方がいいよ」、「こういうふうに考えるんだよ」と教えてくださるので、教育面に関してはイメージ通りです。

プログラムの特徴はどんな点でしょうか。

1・2年目に内科6か月、救急3か月、小児科・外科・産婦人科・精神科各1か月、2年目に地域医療1か月と決まっていますが、それ以外の自由度は高いです。私の同期で皮膚科志望の人がいるのですが、その同期は2年目の半分ほどは皮膚科を回るようで、そういうニーズにも応えていただけます。また、当院にない診療科や弱い診療科は静岡県立静岡がんセンターや北里大学病院などでも研修させていただけます。内科を考えている場合、当院は三次救急の病院ではありますが、J-OSLERの経験症例が集めきれないこともあります。しかし、そういうこともカバーできるプログラムになっています。初期研修担当の指導医の先生に希望を言えば、希望が通ることが多いです。

プログラムの自由度はいかがですか。

高いですね。私は放射線科を目指しているので、画像を診ることも大事ですが、初期研修の2年間は色々な疾患を診て、何が必要なのか、今後はどういう点に気をつけないといけないのかなどをレポートに書けるように、満遍なく学び、幅広い知識を身につけたいです。放射線科については1年目に当院で1カ月回り、2年目も3カ月ほど回る予定ですが、ローテーションの交渉は2、3週間前までに言えば可能なので、まずは3カ月ほど行ってみたいと思います。

院外での研修はありますか。

地域医療と精神科は院外での研修になっています。精神科は沼津中央病院という精神科の専門病院で、措置入院などもしているところです。当院には精神科がないので、入院が必要だったり、自傷他害の恐れのある患者さんを診て、何が必要なのかの管理について学びたいです。今後にどう活きるのか分かりませんが、学ぶことは有用だと思っています。地域医療は西伊豆健育会病院、NTT東日本伊豆病院、富士市のたなかメディカルスクエアや池辺クリニックという選択肢がありますが、私は西伊豆健育会病院に行く予定です。西伊豆地域から月に1、2回、転送になる患者さんがいます。当院は設備が整っている病院なので、上部消化管出血や外科の手術が必要になった患者さんが転送されてきます。西伊豆からの転送には2時間ほどかかるので、様々な判断をする必要性のあるところで症例を診たいと考えています。

どのような姿勢で初期研修に取り組んでいらっしゃいますか。

放射線科を志望しているのですが、放射線科は全身を診ることが少ない科だと思うので、初期研修のうちに色々な症例を満遍なく診たいと考えています。例えば外科なら、消化器内科なら、どういうところを注意してみるのかといった目線も学び、多くの先生方に教えていただいたことを3年目以降に活かしていきたいです。

指導医の先生のご指導はいかがでしょうか。

診療科によっては救急外来で診た患者さんを退院まで指導医の先生と一緒に診ていくことがあるのですが、とても良いです。分からないことをある程度、調べて、この患者さんにはこういう治療が必要なのではないかと私たちの方から上げて、先生方と検討します。また先生方からも「こういう病気がこのあたりに多いから、こういう症例を診たら、こう考えないといけない」という指導を受けたり、脳梗塞などでの注意すべき病態を教えていただいているので、将来に役立つ勉強ができています。先日、救急外来で当直していたら、脊髄損傷の患者さんが来られたのですが、当院は整形外科に強みがあるので、整形外科の先生から「こういう点に注意してみた方がいいよ」と教えていただきました。本を読むだけでは頭に入らないし、一度見たときの衝撃は大きいので、こういうことをしなくてはいけないと教えていただけるのは有り難いです。

沼津市立病院での初期研修で勉強になっていることはどんなことでしょう

今、救急科を回っているのですが、当院は三次救急の病院ですので、考えられる最悪の事態も想定し、検査は何まで出さなくてはいけないのか、診療中にもふりかえって何が足りないのかなどを考えなくてはいけないことが勉強になっています。他の診療科でしたら、時間内に救急で来る患者さんはそこまで多くないと思います。短期的な視点や長期的な視点、今、問題になっていることや今後、問題になりそうなことを考える経験が足りないので、その力をつけていかなくてはいけないと思っています。

何か失敗談はありますか。

失敗談しかないぐらいありますね(笑)。やはり報告、連絡、相談が至らないことからの失敗が多いです。大勢の患者さんを診させていただいていると把握しきれなくなってしまったり、想像していたよりも患者さんの状態が良くならないこともあります。

当直の体制について、お聞かせください。

月に4回か、5回です。上級医2人~3人と初期研修医が1人か2人の体制です。上級医は内科系・外科系医師が必ずいる体制となっており、例えば当直専従が内科医なら、救急当直が外科医で、当直専従が外科医なら、救急当直が内科医です。

医師近影

当直では、どんなことが勉強になっていますか。

診療時間内に比べると、出せる検査も減るので、症状、血液検査、画像など、考えられる材料が少なくなる中で、生命に関わる緊急性がなければ、後日また来ていただくのですが、その判断が勉強になっています。今は新型コロナウイルスの影響で、発熱患者さん関しては診療にあたるスタッフの人数を減らしているので、バイタルが崩れていない患者さんを初期研修医が診ることが多く、急ぐ必要がある検査なのか、CTを急いで撮らないといけないのかといった判断が日中よりもシビアで難しいです。

カンファレンスの雰囲気はいかがですか。

消化器内科では初期研修医が自分の受け持ち患者さんの内視鏡所見や画像所見などをプレゼンします。上級医の先生方は10人足らずですが、そのプレゼンから「これはどうなの」、「この検査はどう考えているの」というツッコミをいただきます。でも大学病院のカンファレンスのような厳しい雰囲気や圧があるわけではなく、「そこはそうなんじゃない」、「そこはそうした方がいいんじゃないの」といった感じで、和やかだけれど、勉強になる空気感です。

コメディカルの方たちとのコミュニケーションはいかがですか。

初期研修医が多く関わるのが救急外来の看護師さんや当直のときに画像でお世話になる診療放射線技師さんです。皆さん、話しかけやすいですし、「骨折だったら、こういう画像を撮るといいよ」などと教えてくださるのですが、初期研修医よりも長く経験されている分、知識の量が全く違うので、とても勉強になっています。私からも「こういう患者さんなんですけど、どうしたらいいと思いますか」と話しかけたりして、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

研修医同士のコミュニケーションは活発ですか。

誰かしらが当直や救急外来に入りますので、「こんな患者さん診たんだけど」と話したり、病棟のことでも「こんな感じで意識が悪いんだけど、この原因をどう思う」などと、活発に話しています。勉強熱心な同期ばかりなので、「この検査したの」といった指摘ももらえます。新しい科をローテートするときには申し送りのような情報共有もしますし、「こういう症例」という話がやはり盛り上がりますね。今はこういうご時世なので、同期と食事などに行けないのが残念ですが、仕事に支障はありません。同期は基幹型で7人、千葉大学、浜松医科大学、山梨大学からのたすきがけの人が4人いますが、少なすぎない人数だと思います。指導医の先生方もコメディカルの方々も4月、5月は私たちが何もできないことを分かっていらっしゃるので、私たちが小さくならないようにコミュニケーションを取ってくださり、そうしたご指導を受けながら、私たちも少しずつできることを増やしていきました。

寮もありますか。

寮はなく、皆が好きな物件を借りて住み、家賃補助をいただいています。沼津は住みやすい街ですが、地方都市ではあるので、車はあった方が便利ですね。病院の近くに大きな商業施設があるので、ほとんどのことは病院の周囲で足りています。

今後のご予定をお聞かせください。

放射線科に進む予定です。放射線科に決めたのは食道、乳腺、胃、前立腺といった多岐に渡るがん腫の治療ができるからです。腫瘍には大学3、4年生の頃から興味を持っていました。どの診療科でも治療後は「良かったね」と言えますが、骨折後に「歩けるようになって良かったね」というのと「がんが治って良かったね」というのでは違う気がしています。一般の人の中にはがんになると死んでしまうというイメージを持っている人もいます。手術をしなくても良くなったり、奏効すれば長い人生に付き合っていけるわけですから、自分がかつてできていたことが再びできるようになることよりも死ぬと思っていたがんがなくなる方がハッピーなのではないかと考え、放射線科を志望しています。

専攻医研修はどこでされる予定ですか。

放射線科は市中病院での専攻医研修が難しいので、大学病院を考えていますが、どこの大学にするかは悩んでいます。当院の放射線科は千葉大学の関連病院で、先生方にもよくしていただいています。千葉大学の教授も週に1度、来院され、勉強させていただいています。学生が教授にいきなり質問することはできないのですが、当院のような規模ですと、私たちのような研修医が質問することの心理的なハードルが低いのが良いところですね。

ご趣味など、プライベートの過ごし方について教えてください。

このご時世だと、人と一緒に過ごしにくいので、家でゲームをしたり、音楽を聴いたりしています。同期の中にはバイクが好きで、ツーリングに出かけている人もいます。週末は週末として、オンオフをきちんと切り替えている人が多い印象です。

現在の臨床研修制度に関して、ご意見をお願いします。

色々な診療科を回って、最低限の知識を身につけてほしいという要望はどの診療科の医師にもあると思います。その最低限のベースを上げていくことは勉強になりますが、1カ月ほどのローテートだと診療科に慣れ、「こういうふうに考えればいいんだな」と分かってきた頃に異動となるので、その意味では何とも言えない部分があります。

最後に、これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

国から一定のカリキュラムが定められているので、最低限のラインが担保されているようになってきています。その中で、臨床研修病院に何を求めるのかというと、3年目以降の進み方を考慮してみるといいです。内科、外科という大枠は決めているでしょうから、外科であれば外科の強い病院、消化器内科に興味があるなら消化器内科に関してすごい病院を選ぶと自分のためになります。ただ、5、6年生のときに、どの病院のどの診療科が強いという情報を得られる機会は少ないです。学生のときはどういう手術をしているという実感を持てないし、どういう手術が多いからいい病院なんだということも分かりません。これは見学に行かないと分からないことです。新型コロナウイルスの影響で、病院見学が難しい状況ではありますが、なるべく見学に行きましょう。5、6年生になると、どのぐらいの症例を診ていきたいというのは好みが分かれますが、初期研修医の人数がある程度はいた方が自分とは違う角度から診る同期に出会えます。また同期にモチベーションの高い人がいれば皆が引っ張られていくので、やる気がない人が集まっている病院よりも良い研修になるはずです。静岡県東部の三次救急病院は順天堂大学医学部附属静岡病院と当院しかないので、順天堂大学の先生方に教えていただくこともあります。救急外来にはこのほか、東京医科大学からも先生方がいらしているので、勉強になります。そういう教育的な病院ですので、是非いらしてください。

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