「Youtubeで見る身体診察」出版 インタビュー

YouTubeでみる 身体診察

監修 倉本 秋・瀬尾 宏美
編集 石井 洋介
著者 コーチレジ

内容紹介

学生時代にOSCEを経験するため,身体所見のとり方の一通りは身につける。ただし,ほとんどマニュアルどおりに覚えているだけであり,型を覚えているに近い。研修医となり,いざ実践するときに,痛がる患者を目の前にして型どおりのやり方をやっている場合ではないことが多い。
そこで本書では,学生時代に習った身体所見の基本(OSCE)を復習するとともに,それを活かしながら実際の現場で研修医がどのように身体所見をとり,診断へと結びつけるのかを学べる本である。また,教科書だけではわからない手技はYouTubeで動画視聴ができ,手軽にいつでもどこでも確認ができるようになっている。

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本を出版するきっかけについて教えてください。

石井:『Youtube でみる身体診察』の前身にあたる本を高知医療再生機構の倉本秋理事長が代表執筆されていて、今回はその書籍の改訂版を作成して欲しいという依頼でした。既に身体診察の本は各社紙ベースで視覚化も進んでおり、非常に分かりやすく、最近では『マクギーの身体診断学』のような良書も存在しています。その中で、身体診察の書籍としてこれまでに伝えきれていないものがあるとするとなんだろうかというところから始まりました。

伴:他の書籍では表現できないものでないと駄目だと思いました。結果として、改訂版と言いながら、完全に姿が変わってしまいました(笑)。

石井:どこかにブルーオーシャンがないかと探した結果、ターゲットとして想定したのは、決定版のような本を読みきれない私のような人です(笑)。難しい本を読んでいると寝てしまう、カンファレンスや勉強会の議論が辛いというような人ですね。身体診察の本は「15°の角度で、右手は添えるだけで・・・」と静止画で表現しようと思うと非常に細かなレベルで書かれていることが多いのですが、「色々書いてあってなんだかよく分からない」となってしまう人もいるなと感じてました。デジタルコンテンツの時代で、企画を始めた時にはすでにから動画コンテンツが世の中では主流でした。ユーチューバーとかが出始めていた時代ですね。スマホがあればどこでも勉強できる、そんな時代になると直感的にみんな感じていました。本に付いているDVD はパソコンに差し込まないと見ることができないですから、タブレットで見られるようにしたいと思いました。YouTube の利用に加えて、私たちが高知でやっていたことを活かしたいという思いもありました。地方の病院当直へ一人で行った時も、端末を見ることで、先輩が横で教えてくれているような口語調の本にしたいと思いましたね。

じゃあ、最初は地域枠の医師が対象だったのですか

石井:いえ、地域枠が対象という訳ではないですが、これから地域枠が増えて、より地域医療における総合診療が重要になることが分かっていました。

伴:地域枠に限らず、都会にいても3年目で地域の病院に一人当直に行くということはよくあることですので、そういう時でも利用しやすいように考えました。

石井:遠隔地にいても学べる、確認できるものにしたい。YouTubeで全国が同じものを見て話ができる状況がいいなと言ってました。東京にいながら、高知の後輩に伝えるというイメージで作成しました。

伴:僕らが学生や研修医に教えていることをそのまま書籍にしたような感じです、コラムとかも普段の会話でするような内容ですね。

石井:いざ作るとなると、とても大変でした。直腸指診1つとっても、学ぶべき内容は非常に多く、全てを覚えるのは大変です。学生〜研修医で覚えておきたい重要な部分に絞ることとしましたが、それを若僧がYouTubeに載せると「それじゃ全然足りないぞ」というような批判が続出し、いわゆる炎上のするのではという怖さもありました。

それをどうやって乗り越えたのですか?

石井:当時たまたま、ニコニコ学会というニコニコ動画の中で学会をする団体の代表が書かれた「進化するアカデミア」という書籍で、オープン・イノベーションという言葉を見つけました。学会というのはそもそも1年目の若僧、いや関係者でない素人でも、自分のアイデアを教授陣にぶつけることができるような場、オープン・イノベーションの場であったのだと知りました。間違いは良くないですが、例えば「うちはこういうやり方だ」とか「私はこう思う」という意見が続出して、身体診察の議論がより深まるのであれば、それは医療界にとってプラスですし、本来のアカデミアの姿だと考えました。思った通りに、YouTubeやSNSなどでどんどん活用してもらえるようにしていこうと思いました。

YouTubeだと色々な人が見ることが出来ますね。

石井:そうですね、YouTubeでやることを考えた時に、医療スタッフ全体で共有できるものになるといいなと思っていました。研修医の場合は上級医と一緒に多くの患者さんに接するので結果的に身体診察を覚えるのですが、医療スタッフの人達は研修の機会などが少ないと聞きます。医学書は高いですから、フリーで見られるYouTubeは有効だと思いました。更に言えば、在宅の患者さんがいるご家族が見るなど、医師がやっている技術を多くの人達に知ってもらうことで医療全体がよくなっていくのではという仮説を立てました。

先生方から提案されたのですね

石井:最初は第二版をという依頼でしたが、これまでお話した通り、「何か新しい価値を提供したいので、YouTubeで動画をつけた本にさせて下さい」とお願いしました。出版社は前例がないということで、最初は懐疑的でした。でも、やりとりをしていく中で情熱も伝わり、担当者も非常に熱心に作成に協力してもらえました。ただ前例がないものだったので、作成作業は非常に難航し、1年で作成予定が3年以上かかったので、担当の方にはとても悪いことをしました。きっとクビの一歩手前だったことでしょう。

伴:初期研修が終わって、メンバーの一部が高知を離れてしまったのも工程が遅れた理由ですね。物理的に遠くなってしまい、集まることができなかったので、テキストベースでやりとりをするなどが中心でした。

本の制作には、多くのコーチレジの先生方が関わられていますね。

石井:メインで執筆したのは5-6名ですが、部分的に関わってもらったり、コーチレジのメンバーには適宜相談して、「ここは分かりにくい」とか「こういう一言を補った方がいいのでは」など、とても多くの人に関わってもらいました。本の帯も高知大の後輩の書道家に書いてもらったので、高知の若手は頑張りました。ただ、コーチレジだけではなく、倉本先生が県内外の先生にも執筆や監修を依頼してくれたので、とても重厚な内容になりましたね。

伴:先生達の名前の中に、コーチレジの名前が入った本ができた時は嬉しかったですね。

動画を取るのも大変ではなかったですか?

石井:私が学生時代に映画研究会に入っていて、趣味で映像作成はよくやっていたんです。学生時代に作成した動画もYouTubeに上がってます(笑)。そういう実現可能性もあり、提案できた面もあるかも知れませんね。動画もメンバーで全て編集しました。撮影は項目を挙げておいて、一泊二日の合宿で一気に撮影するというような形で進めました。

今、YouTubeでやっているのはこの本だけですか

伴:書籍との連携でこれだけ大々的にやっている例は他に聞かないですね。動画だけYouTubeにアップされているものはよくあります。

石井:最終的にはこれを電子書籍化して、「動画マークを押すと、もう一度動画が始まる」というように、オフラインでも利用できるような本になるのが理想形だと思っています。

伴:オフラインでも使える医学書は、災害時などにも有効です。

石井:ただ出版社からは「電子書籍化は是非したいですが、売れないとできません」と言われています(笑)。医学書の電子化は遅れていて、シェアは全体の2%程度しかないらしいです。是非色々と電子化は試していきたいですね。

他に今までの身体診察の本との違いはありますか?

石井:私達の本では、例えば身体診察の延長としてエコーの使い方などにも少し触れることとしました。正確には身体診察ではないのですが、僕らの世代などは聴診器を使う感覚でエコーを利用しますし、身体診察を勉強している時が一番エコーに興味を持つタイミングなので、同時に入れることにしました。

伴:身体診察にエコーまで入れてしまうのは抵抗がある方も多いと思います。聴診器で聞こえない場合も多いので、エコーも併用しましょうと記載していますので、身体診察の教科書としては邪道です。ただ、エコーで見ると逆流があったので、もう一度慎重に聴診すると逆流音が聞こえたというようなこともありました。身体診察にもフィードバックになるので、是非使い方まで入れたいと思いました。

他の本にない記述も豊富ですね

石井:現場では、先輩が後輩に例え話なども用いて細かく教えています。臨床の場ではよく使われているが書籍には載らないようなものも、今回の本では後輩に伝えるつもりで記載しています。また、実際に患者さんがいらっしゃった時のシミュレーションやロールプレイのようなものも付けています。身体診察は考え方が大切なので、所見の取り方だけではなく、生身の患者さんを想定して、「何のために所見を取るのだろうか」を意識して作成しました。

伴:例えば、病歴から虫垂炎を疑うから、下腹部の所見に力を入れてとろうとします。その後は最終的にCT撮影を行って虫垂炎であることを確認して外科医に連絡をするのですが、虫垂炎のCTは読影が難しいということがあるので、この本ではCTの見方まで記載しています。

石井:その後にカルテの記載が必要になりますね、こういうカルテはダメという研修医の失敗例をもとに、カルテの記載に関してもポイントを書きました。身体診察の枠を大幅に飛び越えて、エコーもCTも、初期補液の方法まで、診断から治療に必要な情報をどうやって集めるのか、記録に残すのかという部分を中心に、研修医が最初の3ヶ月で躓く点などに注意して作成しました。

他の書籍にはCTや補液のことは書かれていないのですよね。

伴:そうですね、身体診察の本という整理としては超邪道です(笑)。本来はそれぞれに本を読む必要がありますが、縦割りの情報をどうやって横につなげるかを意識しました。

石井:書評の中に「今の若手が情報をどうやって繋いでいるかを書いた本である」「身体診察の本と言いながらも、診断の情報が横串しになっていることが面白い」と頂きました。

動画制作にあたっては何か他に工夫したことはありますか?

石井:内容としては、直腸指診や乳房の診察など、一般のDVDではあまり触れられていない部分もこだわって入れました。乳房診察はモデルさんにお願いして、実際の模擬患者さんに協力していただいて撮影しました。乳房診察はプライバシーの問題もあり、なかなか実習でもゆっくり教えてもらう機会がないので、貴重だと思います。また、ちょっとした工夫ですが、キャラクターやBGMを使うなどなるべくポップな作りにして、一本の動画の時間を短くするなど、飽きずに見ることができるようにしました。動画は3分以内に終わることを目標に作成しています。同じことを繰りかえす場合は早送りしてしまい、逆にしっかり見て欲しい部分はスローモーションなどのギミックも入れて、緩急をつけています。

出版後、周囲の方々からの反応や評価はいかがですか。

石井:想像以上に好意的でした。面白い、使いやすい、周りの医療スタッフにも勧めやすいなど、医師だけでなく医療スタッフや学生さんからも評価いただいた点が嬉しいですね。

伴:先輩医師からも「職場の医療スタッフがとても使いやすい」と言っていただきました。他にも「今はYouTubeで勉強するんだ。それが衝撃だった。」とも言われましたね、時代の変化を感じたと。

石井:実際に高校生向けのイベントで『YouTubeで見る身体診察』の動画を流してくれた事例もあったと聞いています。

今後、考えている企画などはありますか?

石井:私はプライベートで「うんコレ」という大腸癌検診啓発スマホアプリ作成なども行っています。このことも含めてもっと医療を面白く分かりやすく、とっつきやすいものにできないかと思っています。エンターテイメントファーストに、デジタルコンテンツやイベント等を通して、医療者だけでなく広く一般の方にも、医療に全く興味のなかった人にも、医療の基礎知識を知ってもらえるような取り組みをしていきたいと考えています。その第一歩として、『YouTubeで見る身体診察』が医療者の皆様にとって仕事や学業の合間に楽しんで頂ける書籍になっていれば、こんなに嬉しいことはないですね。