「勤務医は倍必要だ」
6月17日、福田康夫首相と舛添要一厚生労働相が会談し、大学医学部定員削減の撤回や医師の増員などの方針で一致した。地方の医師不足などの問題に対し、それが「偏在」によるのか、「偏在、プラス絶対的不足か」はこれまでも議論されてきたが、偏在だけではなく絶対数が足りない、という判断に至ってのことだ。
確かに、地方の医師不足や、産婦人科や小児科医の不足は深刻だ。「お産難民」なんて言葉が出来たり、私の実家の福島県でも、手術自体を辞めてしまった病院もあれば、老人が手術を受けるのに100人待ちなんて病院もある。政治的にどうにかしなくてはならない問題だろう。だが、医学部の定員を増やして医師を増やすということはどうなのだろうか?(6月18日現在でも、既にいろいろな反響があり、このエッセイがアップされる25日には、また新たな動きが出ているかもしれないが)
それだけでは、医師不足の問題解決には繋がらない可能性が高いであろうし、また、新しい別の問題を生じることが懸念される。
先日、人気タレント主演の政治家を主人公とするドラマでも、小児科医が少ないという問題が取り上げられていた。小児科医不足の医療対策に補正予算案を出すという話だった。
しかし、ドラマではなく現実の社会では、中学生までの児童の医療費が無料という地方がある。ただでさえ小児科医が少ないのに、そこに患者が行きやすくしている。受け入れ先を整える前に受け入れ数を増やそうとしている。どう考えても、追いつくはずかない。
医師の数が増えれば医師不足が解消されるか、ということについてだが、現在、医師が足りないのは主に一部の科と地方のみだ。都会の便利で刺激的な生活を望む医師が増え、小児科、産婦人科、外科系など、きつい科を選ぶ者が減っただけとも取れる。都会の一部では、クリニックの飽和が始まっている。競争が厳しくなり、廃業するクリニックもある。東京の大学病院には、地方から多数の研修医たちが集まって来ている。この偏在をなくさない限り、いくら全体数を増やしても、現在問題となっている医師不足は解決しないだろう。それだけでなく、偏在がさらに大きくなるだけかもしれない。
経済的にも、医師の数は増えても、きっと国の医療費は増えないだろう。それを単純に考えると、増えた分だけ一人当たりの給料が減る。医師数が2 倍になれば、給料は 2 分の 1 だ。数が増えれば、世の中全体で、医師のステータスが落ちて、医師を目指す優秀な人材も減ってしまう可能性もある。
求人についても変化があるだろう。現在、医師が再就職する場合、一般の職業に比べて医師は有利だ。医師は選ぶ側である。しかし、医師の数が増えれば、それは逆になる。医師は選ぶ側ではなくなる。現在は、リンクスタッフさんのように、求人先の情報を提供してくれる便利でありがたい会社があるが、それもどうなっていくか。。。
早速、新聞を見て、その話題を話してきた患者さんがいた。
「医者の質が落ちるのは困る。誰でも医者になれるようになったら心配だ」と言ってきた。医療を受ける側にしてみれば、そのような不安が出るのは当然だろう。現実はどうかはさておいて、患者さんは、医師を優秀だと思い、信頼している。だが、それが誤診や手術ミスが増えたりしたら、どうなるだろうか。数を増やすということは、ピラミッドの底辺を広げるということでしかない。能力的にも人間的にも、医療問題を起こす医師の率は高くなるだろう。
何事も、選ばれし者だからこそ価値がある。数少ない医師だからこそ、勤務環境は厳しくても価値があり、やりがいと誇りを持てる。医師数が増えれば、仕事は確かに楽になるかもしれないが、当然、医師の価値は下がる。そうなったときにモチベーションは保たれるだろうか?
この医学部定員数増加は、医師という職業のアイデンティティを揺るがしかねない大きな問題だ。これから、医学部の定員を増やしても、その影響が出るのは、10年後20年後の話だろうが、そのときどうなっているであろうか?
政治家が行うことは、我々一人の医者としては、どうにも出来ないが、日本医師会が医療現場の問題を把握し、病院と医師、そして患者とその家族を守ってくれることを多いに期待しましょう。何よりも、患者がいての医師であるということを忘れずに。
しかしながら、一般的な会社員のように 9 時? 5 時の勤務時間、土日祝日休みで、勿論、当直なし。そんな生活にたまには憧れたりする思いを持つ医者は私だけでないことでしょうね。
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