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ハッピー♡マッチ
崎長 ライト  編集:杜 美樹  挿絵:羽野 ねねこ
第四部 初夏 上五島 第一話 カッパ
2017.03.17

「もうすぐ着くよー、アオイちゃん、起きて」
 あたしは、すっかり眠り込んでいるアオイちゃんの肩をゆらします。アオイちゃんは、大きなあくびをひとつして髪をかきあげて首をふります。
「眠ったー。全然揺れなかったよねー。着いた? うわー」

 窓際に座るアオイちゃんは、外に広がる青い海をみて声をあげます。高速フェリー「びっぐあーす号」が、速度をおとしてゆっくりと港に入ってゆきます。
 二〇一七年五月三十一日(水曜日)午後二時四十分。
 長崎県新上五島町の鯛ノ浦港。
 医学六年生となったあたし達は、クリニカル・クラークシップ(実習ですね)の最後の一ヵ月を上五島病院で行うこととなりました。
 フェリーは、桟橋に近づいてゆきます。
青く広がる海が小さくなってゆき、緑の山々が迫ってきます。
緑がまぶしいって、こんな山のことを言うんですね。青空に、飛行機雲が一筋、スーときれいな線を描いてます。潮の香がします。フェリーの水しぶきを切るエンジン音が小さくなってゆき、館内放送の音が大きく響きます。
「つばき、なんなの、この曲?」
アップテンポの女性の歌声ですが、明らかにメロディーが昭和歌謡的で、暑さの中、魂を吸い取られそうな変な曲です。

 清らかな川の明かりをめざそう
 教会で祈りをささげよう
 君の涙をふいてあげる、待ってて

 ほんとになんじゃーという感じですが、あたしは、DVDプレーヤーを、関ジャニのトートバックの中に急いでしまいます。
「見たの?」
「うん」
「泣いたの? 目赤いよ」
「うん。感動しすぎで」
「ふーん、どんな話」
 七坂先生との約束どおり、モノレールと飛行機とバスとフェリーを乗り継ぐ間に、『くちびるに歌を』と『風に立つライオン』を立て続けに観ました。ふたつの映画は今あたしの中でぐちゃぐちゃになっています。そう、今、手に持っている、スタバの夏限定のベイクドチーズケーキのように。飲み物なのか食べ物なのかわからない、ぐちゃぐちゃな状態なのです。あたしは、それをすすりながら、説明しました。
「五島とアフリカで、子供と大人が出てきて、めっちゃ感動」
「ハ〜、全然、わかんないよー。二つもいっぺんに観るから」
 そういわれても…。
 でも、実際、今ふたつの物語は、同時進行しているのです。
アオイちゃんの物語とあたしの物語。
このふたつの物語は、この上五島で、おそらく次の展開を迎えるでしょう。なぜって? この海風がそう言っているからです。
結末は、予想もつきませんが、ハッピーであってほしいと願います。変な曲を聴きながら、あたしは、この半年を振り返っていました。

 アオイちゃんの物語は、恋とキャリアに悩む青春物語です。
十月のEレジのマッチング説明会の後、アオイちゃんは俊介君と何度か大きな喧嘩をしたようです。
「あんな奴とは、絶対別れるよ、絶対」
 アオイちゃんは、オオカミ少女のように何度も繰り返すので、あたしは、「えっ、なになに、何があったの?」と、聞くこともなくなりました。年明けからは、サイレント状態に陥ったようです。付き合っているのか、別れたのかよくわからない状態です。アオイちゃんも多くを語りません。
 一方、「あんな奴」呼ばわりされる桜田俊介君とは、ポリクリの班が同じなので毎日会うのですが、しごく冷静です。
彼は髪形を変えました。ふわっとした天然パーマで、可愛いい髪形だったんですが、今はカリッとした感じになりました。ストパーをかけて、短く刈り上げ、ピシッと七三に分けてオールバックにしています。「EXILE」のなんとかという人に似てますが…、すいません、そっち系統は、out of 眼中です(菜々さんが使う昭和のギャグです)。とにかく俊介君は、変わりました。よく勉強するようになりました。もともと頭の良さは一級ですので、鍛えると超がつく感じです。
「先生、この問題の考え方は、これでよろしいでしょうか? 調べた限りではこういう感じなんですが。よろしくご指導お願いします」
 などと、明らかに、何かを意識したものとなりました。
何かとは、おそらくマッチングとかなのでしょうが、その先にある将来のキャリアも意識してるんじゃないでしょうか。彼は、もともと九州鹿児島の有名高校出身ですし、同級生も帝大に行った人がたくさんいるようです。プライドもあるし、負けん気もあると思いますが、スマートだがら、感情を表に出すことはありません。

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著者プロフィール

崎長 ライト
崎長 ライト
長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました〜。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

著者より一言:アクセスしてくれて、本当にありがとうございます!超〜、感謝です。
       ハッピーの積み重ねを感じる力が大事(長崎大学病院 医療教育開発センターWEBサイトより)