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ハッピー♡マッチ
崎長 ライト  編集:杜 美樹  挿絵:羽野 ねねこ
第三部 出会いと別れ 春 第四話 セブン
2017.01.27

 金曜日の夜に出会った人は、白野大地という大学院生でした。
 あたしが住むエコ・タウンのガーベジ・ステーション(ぶっちゃげ、ゴミ置き場です)で、ラップを歌いながら一生懸命ゴミの分別をしていました。
 その夜、あたし達は短い言葉を交わし、分別作業が終わるとそれぞれに帰ってゆきました。もちろん何の約束を交わしたわけではありませんが、再び出会ってしまいました。運命? そんな大げさなものではないでしょうが、翌日(土曜日)の朝、再会しました。
 部屋の模様替えの最後のゴミを出して、朝食の牛乳を買いにコンビニに行こうと思って、ステーションの前を通ると彼がいました。同じ格好で、一生懸命作業を続けていました。
 寒い朝でした。彼の背中から湯気が出ています。柵の鉄の戸を開けて、声をかけてみます。
「おはようございます」
 ゴーグルとマスクを取りました。
「あっ、おはようございます、佐藤さん」
 視線は合わせてくれません。
「もしかしたら、白野さん、徹夜ですか?」
「いえいえ、ちゃんと寝ましたよ」
「なんで、二日も続けて分別してるんですか? 院生なのに」
 彼は手袋をとりました。
「えっ、御存じない? 我々、院生が、このアパートで…」
「えっ、何かやってるんですか?」
「やっぱ、知らないんだ。あー、やっぱ、広報不足だよなー」
 彼は、手袋を叩きながら少し悔しそうにそう言いました。
「このアパートは、実験室なんです」
「実験室?」
 彼、白野大地さんは饒舌になります。
 環境を語りだすと、すごい早口です。
 彼によると、エコ・タウンとは、環境に優しい循環型コミュニティーの建設実験らしいです。大学と市と住宅会社や土地開発会社が協力してNPO法人をつくり運営しているそうです。

「生ごみはガスと肥料に、排水は循環型利用水と燃料にします。ソーラーパネルでお風呂等の電気エネルギーを産生します。資源ごみはリサイクル業者に売りメンテナンス費用に…、いろんなことを地球のためにやっている実験プロジェクトなんです。流行りの産学共同プロジェクトで、国の基金も入っているんです」
「へー、知らなかった」
「入居時に説明しているはずなんですがね」
「すいません」
「あやまることないです、僕らの努力不足なんです。もう少し住民の皆さんと協力して盛り上がることが課題なんです。みんなでプロジェクトを継続しないと、結果がでませんからね」
 彼は、見た目はラッパーですが、意外と熱い人のようです。
大学院生は、自分の研究テーマに合わせて、このプロジェクトを手伝っているらしく、彼のテーマは、排水処理だそうです。
院生は、交代で三ヵ月前後このアパートに泊まり込み、フィールドワークをやり、空いた時間は、アパートのメンテナンスを手伝い、NPOからいくばくかのバイト料が出るようです。その一環が、ゴミの分別。
「へー、そんなことやるんですね」
 そのプロジェクトの詳細は難解でしたが、彼がガーベジ・ステーションの中で汗を拭きながら語る姿は、ステキでした。
あたしは自分のゴミの分別をはじめながら、彼と会話をしました。狭いスペースでの会話は、声が響き合い、気持ちいいことに気づきます。動き回ると視線は合わないのですが、なんか一緒にやっている感じが楽しいのです。
「ぜひ、環境活動にご理解頂いて、参加してもらえれば…」
「はい、これからは。これまでは、すいません、なにもできなくて」
「いえ、あやまることはないんです」
 下を向いたままの会話が続きます。
「本当に、すいません。時々、ズルして、納豆のパックを洗わないで捨ててました」
「いやー」
「焼酎の五合パックの再生紙を一般ごみに混ぜました」
「いやー、まあー」
「白野さん」
「大地でいいです」
「それなら、大地さん、と呼ばせて頂きます。あたし、地球に悪いことしました、許してください」
「いや、許すも許さないも…、佐藤さん」
「つばきでいいです」
「じゃあ、つばきさん。何か面白い人ですね」
 面白い?

あたしは、思わず足元に視線を落としました。ちゃんとしたスニーカーにジーンズにフリースです。今日の格好は、フツーです。
「いやいや、ユニークというか…」



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著者プロフィール

崎長 ライト
崎長 ライト
長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました〜。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

著者より一言:アクセスしてくれて、本当にありがとうございます!超〜、感謝です。
       ハッピーの積み重ねを感じる力が大事(長崎大学病院 医療教育開発センターWEBサイトより)