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ハッピー♡マッチ
崎長 ライト  編集:杜 美樹  挿絵:羽野 ねねこ
第二部 実家 冬 第五話 関東医科大学 実習室 (BY アオイ)
2016.11.25

 桜田俊介。
 彼と付き合い始めたのは、医学部三年生の秋頃だったから、もうまる二年になる。
 出会いは、病理学の試験の前だった。
 土曜日の殺風景な実習室には、数十台のパソコンが並び、学生たちが週明けの試験に備えて、それぞれ映し出されるモニターの組織画像をのぞき込んでいた。
 PC席は、すでに満席だった。

私とつばきは、いちばん後ろのテーブルへ向かった。顕微鏡が向かい合わせに二組、四台置いてある。私はすこし焦っていた。
「仕方ないね、ここでしばらく勉強しよう」
「アオイちゃん、パソコンが空くまで待とうよ」
「時間がもったないないよ。パソコンの画像は、顕微鏡のものを取り込んでいるだけだから、基本同じじゃない」
「うん、そうだけど。どうせ試験問題は、パソコンの画像のカラーコピーだよ。パソコンで勉強した方がいいよ」
「まあ、そうだけど」
 私は、病理がかなり苦手だった。少しの時間でも画像が見たい。

 顕微鏡の上にはガラスのプレパラートがのっている。
 のぞいてみる。
 つばきものぞき込む。
 そこには、赤や青や丸や三角の細胞や血管が織りなす別世界が広がっていた。
 美しい。
 パソコンの画面と明らかに違う立体感がある。生々しい感じがする。木箱へプレパラートを戻し、新しいプレパラートを顕微鏡に添える。今度は、ぞっとするような気味悪い感じがする。しかし、誰もそんな感傷的なことは考えない。覗いて、病名を当てなければならない。
 これは、肺がんか?
プレパラートの番号と木箱の裏にある病名の答え合わせをする。
 はずれ…、正解は肺結核。
手元の教科書の写真やノートの解説と見比べる。細胞とか筋肉とか、臓器の違いくらいはわかるが、どれをみても同じに見える。私にはセンスがない。なぜだか、つばきは、それが得意そうだ。一瞬で判断して、答え合わせして「正解!」とつぶやき、どんどんプレパラートを代えてゆく。
「なんで、わかるのよ」
「だって、ぱっとみたら、さっとわかるよ」
「そんなんじゃ、説明になってないよ」
 そんなやりとりをしていると、桜田俊介が目の前に座った。

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著者プロフィール

崎長 ライト
崎長 ライト
長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました〜。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

著者より一言:アクセスしてくれて、本当にありがとうございます!超〜、感謝です。
       ハッピーの積み重ねを感じる力が大事(長崎大学病院 医療教育開発センターWEBサイトより)