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ハッピー♡マッチ
崎長 ライト  編集:杜 美樹  挿絵:羽野 ねねこ
第一部 東京 秋 第一話 大事な選択のはじまり(BY つばき)
2016.09.16

 あたし、佐藤つばきは、長い、長い列に並んでいます。
2016年の秋の良く晴れた日曜日のことです。

 二十四才女子が、もうすでに二時間も並んでるのには、それなりの理由があります。それは…、ちょっと言いにくい。だって、恥ずかしいじゃないですかーいちおう医大生だしー。でも、誰かに話したいこの衝動を抑えきれません。
あの人に会えるんです。
人生を変える最高の出会いが、この列の先に待っているのです!
 あの人は、この東京ドームの中で、今、リハーサル中なはず。
 あっ、向こうから人が走ってきます。
「ドクターはいませんか! お医者さんは!」
 スタッフジャンパーを着た人が、懸命に叫んでいます。
 おもいきって、手を挙げます。
「はい! ドクターではありませんが、ドクターの卵です」
「よかったー、こっちに来てください!」
 スタッフは、あたしを先導して走ってゆきます。ドームの中に入りました。あたしが、到着したのは、中央の舞台の上です。
あっ、あの人が倒れています。
あたしは、医学生です。冷静に救急処置のABCを実践します。
A、気道確保、B、人工呼吸、C、心臓マッサージ。1、2、3…と声を出して…、必死で繰り返します。
しばらくたつと、あの人は、目を覚ましました。
「ありが…とう…、君は?」
「ただの通りすがりの者です。気にしないでください」
「せめて、名前だけでも…」
 あたしは、何も告げず走り去ります。
そして、もちろん、1年後に奇跡の再会があり、いろいろあって、あたしたちは、結ばれるのです。

 このパターンのシミュレーション(人は妄想と呼びますが…)を、列に並んでから、すでに3回やってます。
あたしは、キス(否、あくまでも人工呼吸です)の感覚に酔いしれながら、汗を拭き、ペットボトルの水を飲んで一息。
ふーっ。

 それにしても、すごい列です。
東京ドームの周りを何重にも若い女たちがぐるぐる巻きにしています。うちわやライトを握り、カラフルな服やハッピでキメてて、わいわいガヤガヤ。とっても楽しそうです。天気もよく、この熱気で暑いくらいです。
さすが、エイトコン。
医大生の常識と思いますが、念のため解説します。エイトコンとは、アイドルグループ関ジャニ∞(エイト)のコンサートの略語。ちなみに、そのファンをエイターと呼びます。
あたし? うふっ、もちろん、エイター。
安田君の担当。
「担当」とは、AKBでいう「推しメン」です。歌舞伎でいえば「ごひいき」? 医学部でいえば「チューター」…、いや違うなあー。そう、単なる「ファン」です。ファン=エイターの列はゆっくりと進んでいます。ようやく、二十五番ゲート前。
『ここから、あと60分』の看板。
あと、一時間で、安田君、ヤス君のグッズを買える。もし、本人がたまたま通りかかったら、どうしよう。絶対、泣いちゃう。
「佐藤つばきさんですね、来てくれてありがとう」とか、言われたら、あたし、もう…、倒れます、卒倒します、心肺停止状態。AEDは要りません、そのままヤス君に抱かれて、いかせてください…。そんな妄想しながら、限定販売のコンサートグッズをゲットするために、もう二時間並んでいます。 負けるな、あと、少しだ、頑張れ、佐藤つばき。
大丈夫。あたしは、耐えることだけは得意なはず。
これまでの人生だって受験レースに並び、一年の浪人生活に耐え、なんとか医大生(いちおう、関東、でも田舎)。統計の再試験や病理学の再再試験やCBTの再試験(再試料金二万八千円、高すぎ!)にも耐えて、やっと実習もはじまり、もうすでに、十カ月がすぎました。来年は無事六年生になり、再来年は医者になるはずなんです、たぶん(祈願)。
その前に、マッチングと国家試験があるけど。念のため解説します。医大生の常識ですが、
マッチングとは…、
よくわかりましぇーん。はい、あたし、バカなジャニーズオタク(世間は、ジャニオタと称します)の医大生なんです。

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著者プロフィール

崎長 ライト
崎長 ライト
長崎大学病院 医療教育開発センター長 浜田久之(内科医)
長崎県生まれ。

医者になりたかったのに、なぜか高校時代は文科系で、読書好きのラガーマン。浪人、大学中退、放浪、バーテンダー…、予備校講師を経てやっと医大生。

医学生時代は、学習塾経営。学生結婚しました〜。学習塾は大繁盛しバブル時代を謳歌しましたが、自分の成績は悪く、最後の模試は105人中100番(汗)。いい仲間のおかげで助けられて、何とか卒業しました(涙)。
初期研修は大学病院で、その後様々な地域の病院で一生懸命働きました、勉強もしました。引っ越し回数20回以上!市中病院の総合診療科病棟の立ち上げ後、トロント大学に家庭医学と医学教育を2年間学びました。これが、人生の転機となりました。 研修医教育(≒マッチング業界)歴は、15年くらいです。ほぼ毎日、1年次研修医の外来研修を熱血指導(半分嫌がられてますが…)しています!

資格:博士(医学)、博士(教育)、消化器病専門医、プライマリケア学会専門医など
趣味:思案橋でハイボールを飲みながら、世間話。特に、ジャニーズや芸能ネタは好きです(笑)。
小説:『小さな世界平和』 (※長崎新聞社新春小説大賞佳作)
   『フルマッチ』

著者より一言:アクセスしてくれて、本当にありがとうございます!超〜、感謝です。
       ハッピーの積み重ねを感じる力が大事(長崎大学病院 医療教育開発センターWEBサイトより)